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第15話-5 秋の誕生日

秋がそうしてだらしなく頬を緩めていると、ピコン、と携帯に通知が入った。 それは秋の母親からだった。 メッセージを開くと、誕生日おめでとう、と来ていた。 秋はそれに、ありがとう!とすぐに返事をする。 するとすぐに、母親から電話が来た。 「もしもし」 「もしもし?秋?」 「うん」 「誕生日おめでとう」 「はは、メールくれたやん わざわざ電話してくれたん?」 そうして母親はあんた連絡もろくによこさへんし全然顔も見せに帰ってこうへんし、と言った。 秋はごめんごめん、と軽くそれに返す。 すると母親は言った。 「そろそろ一回帰っておいでよ」 「ん〜、でも帰る金ないし…」 「なにぃ、あんた仕事うまく行ってへんの?」 「あ〜…いや〜…まあ、ぼちぼち」 「ぼちぼちってなんやな」 「や〜…あの…」 そう渋ってから、秋は切り出した。 「……事務所、辞めることなってん」 秋がそう言うと、母親はしばらく黙り込んだ後、…え?と心底驚いたような声をあげた。 「…なんで?」 「いや……契約終了…みたいな…」 実は、秋は高校を卒業した頃に、それまで所属していた大手音楽芸能事務所から呼び出され、契約満了につき話し合いがなされていた。 中学生の頃から仮契約として所属して5年ほど、その間秋は泣かず飛ばすで、高校を卒業するにあたり、この売上では厳しい、と事務所から告げられていたのだ。 そうして秋は実質事務所をクビになり、しかしそれを親にも春にも到底言い出せず、黙ってフリーランスとして細々と活動を続けていた。 運が良かったのは、事務所時代にマネージャーとしてついてくれていた高村隼人(たかむらはやと)が、同時期に独立して小さな音楽事務所を立ち上げたことだった。 何かあったら頼って、と高村は言ってくれ、退社してからも個人的に連絡を取り合っていた。 向井からのドラマの劇伴の話も高村を通じて依頼を受けることが出来、細かいやり取りはすべて高村に任せていた。 毎年秋頃に開催していたワンマンを実施しなかったのも、事務所を退社したことが原因だった。 母親はしばらく黙り込んだ後、お金渡すから一回帰ってきなさい、と強く言った。 秋はそれを断れず、分かった、と弱々しく返事をして、電話を切った。 はぁ…と秋は大きなため息をついた。

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