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第15話-6 秋の誕生日
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その夜、いつものように春の帰宅を待って、二人は一緒に寝室へ向かった。
隣で眠る春に秋はそっと擦り寄り、春はそれに微笑んできゅっと秋を抱きしめた。
秋は頭のもやもやを誤魔化したくて、春に甘えるようにして春の首筋に吸い付いた。
春はそれにふふ、と喉を鳴らし、秋の髪を優しく撫でた。
秋が呟くように言う。
「…したい」
すると春は優しく、する?と静かに言った。
そうして二人はゆっくり肌を撫で合い、愛し合った。
秋は春に触れられすぐにいつものように反応するそれに、こんな気分の時でもこんなになるんだ、と半ば自分に呆れて小さく笑った。
事が終わり、秋は春の腕に包まれていた。
春は秋の様子がいつもと違うことに気付いているのか、しかしただ黙って秋の髪を優しく撫でている。
秋は静かに口を開いた。
「あのね」
秋が小さくそう切り出すと、春はふっと秋の顔を覗いた。
その表情には少し、心配の色が滲んでいた。
「…事務所、やめたんだ」
春はそれに少し驚いた顔をした。
「…今日?」
春がそう静かに尋ねた。
「…ううん、高校卒業した時 契約…切れちゃって」
「……そっか」
「…ずっと言えてなくてごめんね」
春は静かに首を横に振る。
「…今日…お母さんから連絡あって…そのこと話して…一回実家帰ってきなさいって言われちゃって…それで…思い出して…落ち込んでた」
「…そっか」
そうして秋は呟くように言った。
「……春のドラマの主題歌やりたいって…夢のまた夢だなって思ってたけど…なんか…もっともっと…遠くなっちゃったな」
その秋の言葉に、春は黙り込んだ。
春はこういう時、そんなことないよ、とか、無責任なことを言わない。
秋が自身が売れてないことをぼやいた時も、売れるよ、なんて言わず、ただ優しく笑うだけだ。
それは、大勢の人間から期待をかけられ、それに応えなければならないという重圧を春は知っているからだ。
それに、春が芸能界でのし上がり、ここまでの人気を得たのは、春が所属する大手芸能事務所の後ろ盾あってのことだと、春自身も理解しているのだろう。
だから、事務所を辞めた、という秋のその発言に、春は簡単な慰めをしない。
ただ優しく秋をそっと撫で、春は黙っている。
秋は再び口を開いた。
「明日から何日か…実家戻るから…家あけるね」
「…分かった」
そうしてしばらく二人が黙り込んだ後、春がそっと言った。
「……さみしい」
春のその発言に、秋はほんの少し微笑んだ。
「…さみしい?」
「……うん」
「……そんなん今の俺に言ってくれるの…春だけだよ」
そう寂しく秋が呟くと、春がぎゅっと秋を抱きしめ、言った。
「…関係ないよ …秋は秋だよ」
ふう、と秋は息を吐き、春をぎゅっと引き寄せた。
春はまた、そっと秋の髪を撫でた。
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