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第15話-7 秋の誕生日
翌朝、春が仕事に出かけた後すぐ、秋も家を出た。
夜行バスで帰るよ、と言った秋に、いいから新幹線ですぐに帰ってきなさい、と母親は言い、秋はそれに素直に従った。
そうして昼前、秋は実家に到着した。
帰って早々、秋の母親――今瀬美代子 は厳しい顔をして秋をリビングに呼び出した。
机を挟み、未だ厳しい顔をして向かいに座る美代子から目を逸らすように、秋は俯いている。
「これからどうするん」
美代子が厳しい口調で尋ねた。
「…どうするって……続ける」
「続けるって…あんたが上京するって言ってそれ許したんは、あの事務所にお世話になるっていうからやで」
「分かってるけど…別に事務所に入ってなくても音楽やれるし」
「あんたなぁ、厳しい世界なんやろ?そんな…あんたみたいなんが一人でやっていけるわけないやろ」
「でも…仕事あるし」
「仕事って…ライブのことやろ?こんなん…言ったらあかんって分かるけど…あんな数人の前でやってたって何もらち開かんやろ」
「…ライブ以外も…あるし」
「なんやな、言うてみいや」
「ドラマの…BGMとか…今やってて…」
「ドラマ…?なんやそれ」
「いろいろ…ツテがあるんだって」
「…ほなそれ終わったらどないするん」
「それは…わかんないけど」
はぁ、と美代子は大きなため息をついた。
「あんなぁ、嫌がらせで言うてるわけやないで あんたのこと心配して言うてるんやで」
「分かってるよ」
「家賃とかどないしてるん」
「それは…今…その…友達…のとこに住んでて」
「…はぁ?なに、友達って高校の?」
「…うん」
「…あんたなぁ、そんなん友達の親御さんも迷惑やで あんたのために家賃払ってるんじゃないんやで」
「違う…その…友達が自分で払ってるから」
「…なんやな、なんの仕事してはるん」
「いや…まあ…」
「芸能人?」
「……うん」
「…あんたいっぺんその子連れてきなさい」
「はあ?!いや無理やって」
「なんでやな そんなんあかんわ、同い年の友達にそんなん住まわせてもらって…なんのお礼もしてへんのちゃうん?」
「…して……ない…けど…」
「ほら」
「…でもすごい忙しいから、その人」
「なに、売れっ子なん」
「……うん」
「誰?お母さん分かる?」
「……たぶん」
「誰やな」
「言わへんわ」
「なんでやな!あんたそれあかんで」
「…とりあえずここに連れてくるとかは無理!ほんまにそんな時間ない」
「……ほな電話」
「…はぁ?!いや無理やって」
「無理無理ってあんたいい加減にしいや お友達もあんたのこと嫌々住ませてるんちゃうか?」
「そんなことないし」
「なんでそんなん言い切れるん」
「いや…」
「あかん わがままも大概にしいや」
そうして、相手と電話させるまで返さへん、と美代子は怒ってリビングから出ていった。
はあ、と秋は項垂れた。
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