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第16話-3 初めてのデート

「…大丈夫?」 春が驚きながらそう尋ね、秋はああ…と平静を装い、うん、と頷いた。 そうして秋の着たスーツに目をやり、春はにこっと笑った。 「似合うね」 秋はその言葉にへへ…と頬を緩める。 そうして、これ!とソファに置いていたスーツを春に手渡した。 ありがとう、と言いつつも、春は眉を顰め、本当にいいのかな、と言った。 スーツを着て欲しい、と春にお願いしたとき、秋は松山にスーツを買ってもらった、と伝えていたのだ。 その時も春は秋の誕生日なのに僕が貰うの?と訝しげな顔をしていたが、やはり気になるらしい。 あとで写真送ってって言ってたよ!と言うと、うーん、とまだ納得はしていない様子で、それでも早く早く!と秋が急かすと、じゃあ着替えてくるね、とリビングを出た。 数分後、リビングに現れた春に、秋は思わず感嘆の声を上げた。 「かっこいい……!」 秋はへにゃあ、と眉を下げ、走り寄って春に飛びついた。 その衝撃でおお、と春は少しよろめいたが、秋を抱き寄せてすっと体勢を戻した。 「サイズ、ぴったりだね」 春がそう言うと、秋は松山が春のスタイリストに掛け合って採寸データをもらったんだよね、と打ち明ける。それに春が驚いて尋ねる。 「これ、オーダーメイドなの?」 「そうだよ」 「え…すごい…高かったんじゃない…?」 そう言うと秋がまあ…向井さんが払うらしいよ、と言うと、春は少し黙ったあと、じゃあいいか、と笑った。 秋は抱き寄せた腕を少し緩め、春をじっと見つめた。 春はふわっと笑い、なに?と言う。 秋は甘えるように、言った。 「…まだちょっと時間あるよ」 すると春はくすっと笑い、え〜?と眉を少し上げた。 寄せた顔に、互いの鼻先が少し触れ、二人はそっと微笑み見つめ合う。 秋はそうしてゆっくり春に唇を重ね、春もそれに瞼を閉じた。 どちらからとも伸びた舌が絡み合い、春が秋を優しく押し進め、そうしてキスをしながら移動し、ソファにとん、と秋を優しく押し倒した。 春はソファに膝をかけ、倒れた秋の首筋に唇を落とす。 秋はんふふ、と嬉しそうに鼻を鳴らし、春の顔に手を伸ばした。 そうしてゆっくりと春の髪を撫で、そうだ、と言った。 「ん?」 「髪、セットしたい!」 そうして秋は手を引いて春を洗面所に連れて行き、鏡の前に春を立たせた。

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