125 / 236
第16話-5 初めてのデート
車に乗り込み、秋が手慣れた様子で運転する様を、春はじっと眺めた。
それに気付き、あんまり見ないでよ、と照れた様子で秋が言うと、春はそっと微笑み、素直に前を見た。
「春は免許あるの?」
「ないよ」
「取りたいって思ったことある?」
「あるよ」
「あるんだ?でもあれだね、取りに行く時間ないよね」
「そうだね」
「俺が運転するから」
「ふふ、うん」
運転に集中しながらも、隣に座る春の横顔をちらちらと盗み見たりして秋は忙しく車内で過ごし、そしてあっという間に目的の店に到着した。
店は春が予約してくれた店だ。
秋は個室がある店など詳しくなく、ゆっくり春と外で食べられたらどこでもいい、と、春に店選びを任せていた。
店のそばにある駐車場を抜け、店に入ると、高級店らしい看板が目に入る。
「なに屋さん?」
秋が尋ねると、春がちょっと困ったような顔をして言った。
「焼肉…なんだけど」
焼肉?!と秋は目を輝かせた。
「予約した時…スーツって知らなかったから…匂い、ついちゃうかも」
春のそんな心配をよそに、秋はクリーニングしたらいいよ!と好物の焼肉に胸を躍らせる。
ともだちにシェアしよう!

