134 / 236

第17話-6 思い出の場所

春がシャワーを浴びてリビングに戻ると、秋は再びスーツに身を包んでいた。 春が笑って尋ねる。 「…また着たの?」 すると秋は拗ねるように春も!と言って、秋が春のスーツを手渡す。 春は着ていたTシャツをその場で脱いでシャツに腕を通す。 秋はそんな春に背を向け、見ないようにしているらしい。 そうして春が再びスーツに身を包んで声をかけると、秋は嬉しそうに振り返って、にこぉ、と笑って飛びついてきた。 「ネクタイはぁ?」 そう拗ねるように言った秋に春はキスをしながら、もういいでしょ?と苦笑してそのまま春に連れられ、二人は寝室へ向かった。 ―― ―― ―― ベッドのそばには二人が脱ぎ捨てたシャツやスーツのズボン、ベルト、下着が散乱している。 二人は寄り添うように寝転がり、裸のまま互いを愛おしそうにそっと髪を撫であう。 静かに秋が口を開いた。 「…ネクタイ」 その一言に春は息を漏らして笑う。 「また言ってる」 「だって〜…」 そう言って秋の理想の外し方があるのか、くいくい、と外す仕草をして見せる。 春は優しく秋の髪を撫でながら、言った。 「…また着たらいいよ」 「着てくれる?」 「うん」 秋は嬉しそうに微笑み、言った。 「制服とはちょっと違うよね」 「そうだね」 「あ…でも……」 そう言って秋はニヤリ、と笑い、言う。 「………制服でもしたい」 春はまた息を漏らして笑い、でもすぐ少しだけ眉を顰めて言った。 「でも…秋の制服、ボタンないんでしょ?」 「今あるやつはそう」 「………誰にあげたの?」 「え?え〜後輩…とか…」 秋がそう言うと、春が目を少し伏せて言った。 「……白石さんとか?」 そう言った春の顔を、秋はじっと見つめた。 白石とは、春と秋の同級生で、今人気の若手女優の白石由真のことだ。 秋に思いを寄せていた女の子で、秋は白石に春のことを好きでもいいから、と告白を受け、少しの間付き合っていたのだ。 秋はそう言った春の顔を見て、優しく笑って言った。 「…妬いてるの?」 春は何も答えず、伏せていた目を上げてじっと秋を見つめた。 秋は再び優しく春の髪を撫で、言った。 「…これからは全部春にあげるよ 俺の全部、春にあげる」 そう言うと、春は優しく微笑んだ。 「だから春もちょうだい」 春は目を閉じて微笑んで、それからまた瞼を開き、じっと秋を見つめて、うん、と小さく頷いた。

ともだちにシェアしよう!