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第17話-6 思い出の場所
春がシャワーを浴びてリビングに戻ると、秋は再びスーツに身を包んでいた。
春が笑って尋ねる。
「…また着たの?」
すると秋は拗ねるように春も!と言って、秋が春のスーツを手渡す。
春は着ていたTシャツをその場で脱いでシャツに腕を通す。
秋はそんな春に背を向け、見ないようにしているらしい。
そうして春が再びスーツに身を包んで声をかけると、秋は嬉しそうに振り返って、にこぉ、と笑って飛びついてきた。
「ネクタイはぁ?」
そう拗ねるように言った秋に春はキスをしながら、もういいでしょ?と苦笑してそのまま春に連れられ、二人は寝室へ向かった。
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ベッドのそばには二人が脱ぎ捨てたシャツやスーツのズボン、ベルト、下着が散乱している。
二人は寄り添うように寝転がり、裸のまま互いを愛おしそうにそっと髪を撫であう。
静かに秋が口を開いた。
「…ネクタイ」
その一言に春は息を漏らして笑う。
「また言ってる」
「だって〜…」
そう言って秋の理想の外し方があるのか、くいくい、と外す仕草をして見せる。
春は優しく秋の髪を撫でながら、言った。
「…また着たらいいよ」
「着てくれる?」
「うん」
秋は嬉しそうに微笑み、言った。
「制服とはちょっと違うよね」
「そうだね」
「あ…でも……」
そう言って秋はニヤリ、と笑い、言う。
「………制服でもしたい」
春はまた息を漏らして笑い、でもすぐ少しだけ眉を顰めて言った。
「でも…秋の制服、ボタンないんでしょ?」
「今あるやつはそう」
「………誰にあげたの?」
「え?え〜後輩…とか…」
秋がそう言うと、春が目を少し伏せて言った。
「……白石さんとか?」
そう言った春の顔を、秋はじっと見つめた。
白石とは、春と秋の同級生で、今人気の若手女優の白石由真のことだ。
秋に思いを寄せていた女の子で、秋は白石に春のことを好きでもいいから、と告白を受け、少しの間付き合っていたのだ。
秋はそう言った春の顔を見て、優しく笑って言った。
「…妬いてるの?」
春は何も答えず、伏せていた目を上げてじっと秋を見つめた。
秋は再び優しく春の髪を撫で、言った。
「…これからは全部春にあげるよ 俺の全部、春にあげる」
そう言うと、春は優しく微笑んだ。
「だから春もちょうだい」
春は目を閉じて微笑んで、それからまた瞼を開き、じっと秋を見つめて、うん、と小さく頷いた。
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