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第18話-4 冬の日
「明日何作ろうかな なんか食べたいものある?」
秋がそう尋ねると、んー…と春が悩む様子を見せた。
「最近のヒットは?」
「ヒット?」
「ほら、これ美味しかったなーみたいな」
え〜…鍋?と春が笑って持っていた器をひょい、と少し持ち上げた。
「それ今食べてるからでしょ〜?」
秋はそんな春に苦笑する。
ほらほら、と秋が催促すると、春は机に置いていた携帯をさっと開き、画面を見ながらうーん、と言った。
「なにそれ?」
秋が尋ねると、日記、と春が言った。
それに秋が驚いて声をあげる。
「日記?日記つけてんの?春?」
うん、と軽い様子で返事をした後、あ、肉じゃが美味しかった、と2日前の秋の料理を思い出したように言った。
「食べたご飯もつけるの?」
そうだよ、と言い、ええ、見せて?と言うと、いやだよーと春は笑い、あ、あれも美味しかった、トマトの…野菜のスープみたいな…と、3日前の秋の料理を言った。
そうしてあれも、これも、と言うのだが、ただ秋が作ったご飯を食べられた時のメニューを日を遡って言っていくだけで、秋はそれに笑った。
「それ全部言ってるだけじゃない?」
「でも…全部美味しいから」
「参考にならないな〜」
そう困ったように笑いながら秋が言うと、春も笑った。
「いつからつけてんの?日記」
「ん〜…高校の時…だったかな」
「なんで始めたの?」
「…忙しくなって…日々の境目が曖昧になってきて…1日の区切りをつけるために…みたいな」
へえ、と秋はつぶやくように言った。
「俺のことも書いてる?」
「ふふ、どうかな」
「えー!書いてよ!」
ふふ、と笑った春に、来年の誕生日は春の日記見せてもらうのをプレゼントにする、と秋が言うと、やだよ〜と春は恥ずかしそうに笑った。
――
――
夜が更けて、二人はベッドに潜り込んだ。
いつもの寝る前のキスを済ませ、それからぽつぽつとなんともない会話を交わしている途中、秋の腕の中で春が寝落ちてしまった。
静かに寝息を立てる春に、疲れてるんだなぁ、と最近の春の忙しさに思いを馳せた。
そうして優しく春の髪を撫でて春を眺めていると、枕元に置いた春の携帯がピカリと光った。
何か通知が来たらしい。
ふと目をやると、それは松永からの連絡だった。
明日の迎えの時間に変更があったのかな、と秋はそれをそっと開く。
春からはそういう時のために自由に見ていいよ、と言われているからだ。
案の定、明日30分早く迎えになりました、と連絡があり、秋はそれに了解しました!と返事をする。
そうして続けてどんぐりのキャラクターが手を上げているようなイラストのスタンプを送った。
それは、秋からの返事の際につけるお決まりのようなものだった。
すぐに既読になり、松永からは頼みます、とおそらく秋宛に返事が来た。
別にスタンプを送らなくとも、春は決まって「了解です」か「ありがとうございます」と、絵文字すらないこの二単語でしか返事をしないので分かるはずなのだが、それはもうもはや秋の癖のようになってしまっているのだ。
そうしてメッセージアプリをタップしてホーム画面に戻ろうとしたとき、ふと先ほどまで開いていたのであろうメモアプリが目に入った。
ちらっと覗く画面には日付と短い文章が記されていて、秋はだめだとは思いつつも好奇心が勝り、それを開いてしまった。
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