139 / 236

第18話-5 冬の日

" 2019.12.3 " " 夜豆乳ごま鍋 おいしい お礼 和菓子? " 今日の日付を除くと、そう記されていた。 秋は思わずふふ、と頬を緩めた。 お礼って俺のお母さんにかな、和菓子がいいかなって考えてたんだ、と口数の少ない春の頭の中を覗けたようで秋はすっかり嬉しくなる。 そうして続けてこう記されていた。 " ドラマ劇伴 感動した 目標があってすごい " 俺のことだ、と秋は思わずふふ、と声を漏らして笑った。 すごいね、そっか、とか、春の返事は基本的にとてもシンプルだ。 普段、わずかな表情の変化で秋は春の気持ちや考えを汲み取ろうとしているが、やっぱりこうして言葉にされると嬉しい。 歌手として成功したい、と言った時、春はそれに微笑むだけだったが、そんなことを思ってくれていたなんて。 秋は思わず春がたまらなく愛おしくなって、そっと額にキスをした。 そうして秋の罪悪感はすっかりと抜け落ち、どんどんと遡って夢中になって春の日記を覗いた。 " 2019.10.16 " " 秋誕生日 焼肉燦 スーツ匂いついた クリーニング " この間行った春との初めての外食の日だ、と秋はまた頬を緩める。 スーツに匂いがつくかも、と春は言っていたが、日記に書くほど気にしていたなんて、と秋は小さく吹き出した。 そうして眠る春に小さな声でクリーニングもう出したよ、と意味もなく呼びかける。 " 高校 卒業振り ボタン貰った 嬉しい " 思いつきで渡した制服のボタンだったが、春が嬉しいと思ってくれていると知り、秋まで嬉しくなる。 " 2019.8.21 " " 柊花来た 焦った " あ、と目に止まる。 春の姉の柊花が突然家に来た日だ。 なんともないように振る舞っていたが、内心焦っていたのだと秋は微笑む。 でもあれかな、キスを見られたことかな?と秋も思わずあの時を思い出して赤面する。 " 幸せになって欲しい 幸せになりたい " その姉へ向けられたと思える言葉と、自分自身の願いを見て、秋はふっと表情を変えた。 幸せになりたい、か。 春は自分といて幸せだろうか。 幸せにできるのだろうか。 ふとそんなことを考えた。 そうして春と過ごした日々の答え合わせをするようにこの半年以上のものに目を通した後、さらに遡って秋は高校時代の春の日記を覗く。

ともだちにシェアしよう!