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第18話-6 冬の日

" 2019.3.1 〜 2019.3.4 " あ、高校の卒業式の日だ、と思わず手が止まった。 あの日、春は前日の深夜から昼までドラマの撮影で、そうしてその後寝ずにグループのデビュー公演に向かい、そうしてそのまま倒れた。 その夜秋がこの家に初めて来て、そうして春と付き合うことになった。     " デビュー公演 迷惑かけた 最悪 入院 " " 秋が来てくれた 嬉しかった けどこわい " 「こわい」、その文字を見て、秋はぎゅっと眉を下げ、胸がキリッと切ない気持ちになった。 ずっと春は秋の気持ちを受け取らず拒み続けた。 三年間ずっとだ。 けれど、やっとあの日、秋の好きだという気持ちを受け取ってくれ、秋の手を取ってくれた。 日付が日を渡って書かれているのは、きっとあの日は高熱で日記を書くことすらままならなかったのだろう、入院してから落ち着いて、春は先日のことを記したのだ。 何が怖いんだろう。 春自身が男が好きなこと? 秋がこれまで女の子が好きだったのに、春が好きだと言っていることがやはり信じきれなかったのだろうか? それとももっと、複雑な何か、なのだろうか。 今もずっと、怖いままなんだろうか。 秋は携帯を持つ手とは逆、春を包んでいた腕の力を少し強め、ぎゅっと春を抱きしめた。   「…怖くないのに」 春は穏やかな顔をして眠っている。 秋は春の額を撫でるようにそおっと頬擦りした。 春がなんでも話してくれたらな。 そうしたらその度、その不安や悩みを解くべく、秋は一緒に悩んで考えることが出来るのに。 もっと春に寄り添うことができるのに。 なんとも言えない気持ちに、秋の心は包まれた。

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