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第18話-7 冬の日
すっと指をまた画面に滑らせる。
もう覗き見はやめよう、と思っているのに、なんとなく気になってやめられない。
" 2019.1.6 "
" 公演リハ 遅れて行った ドラマ押した 申し訳ない "
"2019.1.13 "
" 映画顔合わせ 疲れた 布団に入っても寝れない "
"2019.1.17 "
" 痩せた 衣装合わない 申し訳ない "
" 2019.1.20 "
" 音楽番組とラジオと雑誌とか色々 弁当持ち帰り 残した 噛むのも飲み込むのも面倒 "
" 2019.1.21 "
" 今日何してたか思い出せない "
春がデビュー公演前、慌ただしいスケジュールで働いている時だ。
当時の春の状況が伝わってくる。
秋は思わず顔を顰めた。
" 2019.2.5 "
" むりだ "
一言だけ、そう書かれた文字が目に入る。
春が普段決して言わないような言葉だ。
この日記には春の赤裸々な言葉が綴られている。
簡素だけど、正直で、ありのまま。
秋はその文字を見て、春の携帯を閉じた。
見ちゃいけなかったな。
春だけの、春が正直でいられるその場所を、奪っちゃいけない。
秋は再び春を強く抱きしめた。
「…勝手に見てごめんね」
そうして腕の中で眠る春を見つめ、秋は思った。
いつか春のそういう場所に、自分がなれたらいいな。
正直で、素直に、ありのままでいられる場所が、自分であるならば。
そうなりたい、いや、そうなるんだ、と秋は春を抱きしめそう思った。
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