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第19話-6 春の誕生日

そんな秋に春は優しく笑いつつ、もしかして誕生日?と尋ねた。 「そ、そう……いや…今年は…去年よりほら…ちょっとだけ稼げたから…なんか……とびきりいい物を…と…」 そう言うと春はまた優しく微笑みながら、何もいらないよ?と言った。 「でも二十歳の誕生日だし…なんかさ…記念になるようなものをさ…あげたいじゃん」 秋がそう言うと、春は少し黙った後、恐る恐るといった様子で話し出した。 「…じゃあ…贅沢なこと言ってもいい…?」 その言葉に秋はえ、何、と身構える。 「お、俺でも買えるものかな…?」 「買うんじゃなくて…作って欲しい」 「作る?何?料理?」 そうじゃなくて…と春は秋を見上げるように見つめて言った。 「歌、作って欲しい」 秋は目を丸くした。 「え、う、歌?俺が?」 「うん…」 「え……え、え……そんなのでいいの?」 「そんなの、じゃないよ」 「え、だって俺…頼まれてもないのに毎月毎月…春のこと勝手に歌にしてそこら中で歌いまくってるよ?」 そう言うと春があはは、と笑った。 秋は劇伴制作で忙しくしている中でも週末になると決まってライブハウスに出かけ、シンガーソングライターとして今まで通りに対バンライブに出演している。 なんとなく自分の中でのノルマとして月に一曲新曲を披露する、というのをこなしているのだが、毎回毎回その曲はどう頑張っても春のことを思って作ってしまい、そうして週末には毎回春への熱烈なラブレターとも言える楽曲を数十人の前で披露しているのだ。 機械に疎い春も自身の活動の中でいつのまにか音楽アプリの使い方をマスターしていたようで、春の再生リストにはいつも秋がいて、秋はそれを初めて見つけた時、悲鳴にも近い大声をあげたものだ。

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