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第19話-8 春の誕生日
秋は咄嗟に昨年のデビュー公演のことを思い出した。
あの時、春は高熱のままステージに上がり、持病の無汗症のせいで汗が出ない中、何時間もステージでダンスや歌を披露した結果、春は倒れてしまったのだ。そうして入院までする事態になった。
「倒れたんですか?!」
秋がそうやって必死の形相で駆け寄ると、松永が違う違う!と声を上げた。
「ほら春、今日誕生日でしょ?二十歳の」
「え…?はい…」
「それでほら、公演終わった後みんなにお祝いされて、二十歳になったんだから乾杯しようって言われて、そんでビール一口飲んで……それでこうよ」
「………え?」
秋が混乱していると、ほらもう、重いんだから!と秋に春をなすりつけた。
春は目を閉じてんん…と小さく唸っている。
はいこれ、と春の手荷物を廊下に置き、春を正面から抱き抱えている秋を見てふっ、と笑った。
「順調?」
「え?」
「いやほら、一年だったんじゃないの?」
「あ、ああ…はい、順調!だと思います!」
「そう、よかった」
そうして松永は優しく微笑み、言った。
「なんか…恋愛って大事なんだなーってつくづく思ったわ」
「え?」
「ちょっと春、変わったよ いい方向に」
秋が不思議そうな顔をしていると、言った。
「今までは異常なくらい張り詰めてた感じだったけど…いい感じに力抜けて…表情が穏やかになったっていうか」
「そう…なんですか?」
松永はそれに微笑んで、くん、と鼻を嗅ぎ、カレー?と尋ねた。
「あ、はい!」
「はは、春カレー好きだもんね」
「はい、いっつもこういう時カレーがいいって…でも食べれるかな、今日…」
そう言って秋の肩にもたれかかる春の顔を覗く。
「ご飯とか毎日作ってあげてるんでしょ?」
「まあ…でも簡単なやつですけどね…」
「嬉しそうにしてたよ」
「え?春が?なんか…言ってたんですか?」
「春からは何も言わないけど…ほら、聞いたらね」
「へえ……」
秋がそれに思わずニヤけていると、何笑ってんのよ、と秋をはたく代わりか、春の背中を叩いた。
「じゃあ、明日は昼過ぎに迎えくるから…それ、よろしくね」
そんな言い方に秋は思わず吹き出して、そうしてぺこりと頭を下げた。
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