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第19話-9 春の誕生日
松永が帰り、秋は春〜と、抱えた春に声をかける。
んん…と再び春は小さく唸り、だが秋にもたれかかったままだ。
「靴脱ぐよ〜」
そう言って足元を見ると、春は革のブーツを履いていた。
「え〜…なんでこんな時に限ってそんな難しい靴を…」
そう言って靴をさらにのぞこうと秋が少し屈むと、もたれかかる春がさらに重くのしかかり、秋はおおっ、と春に大事に抱き抱えながらも体勢を崩し、そうして春は壁際に背を預けしゃがみ込んだ。
秋は春〜…と情けない声をあげ、そうして春のブーツの紐を解く。
そういえば、それは春の事務所の社長である霧峰志子が昔にプレゼントしてくれた靴だと、春から聞いたことがあった。
春はこうして大きなライブイベントの日は律儀にそれを必ず履いていく。
それを思い出して秋は少し微笑む。
春は滅多に言葉にしないがそうして行動に示す。
霧峰には何かしら特別な思いがあるのかもしれない。
やっとの思いでブーツを脱がせた後、再び春を抱えてリビングへ向かう。
が、その途中、春がぽつりと言った。
「…シャワー…」
「え?シャワー?…朝入ったら?」
「…汚い…」
そう言われ、春の髪をすん、と匂いを嗅いだ。
ほのかにシャンプーのいい香りがして、いや汚くないって、ライブ後に会場で入ったんじゃないの?と尋ねる。
けれど春は頑なにシャワー…と単語を発し続け、秋は諦めて春を洗面所へ連れていった。
手を離すとすぐにへたりこんだ春に、もぉ〜…と秋は声をあげ、春の服を脱がす。
春はおとなしくそれに従い、されるがままだ。
秋はこの辺りからだんだんと面白くなってきて、春をまるで小さな子供のように扱った。
そうして服を脱がせて、まだ風呂に入っていなかった秋はちょうどいいかと自分も服を脱ぎ、春を抱えて浴室の椅子に座らせた。
そうして春を洗ったその泡の残りで自分もささっと洗い、逐一子供に言い聞かせるように声をかけた。
「はい、上向いてくださーい」
そういうと、春はゆっくりと顔を上にあげた。
視点が定まらず、ぼんやりと秋を見上げている。
目はとろんとしていて、秋はそれにかわいいですね〜とふざけて声をかける。
それでも春はぼんやりしたまま表情を変えず、秋にされるがまま、顔に泡を乗せられ、頬を撫でられている。
そうして全身を綺麗に洗った後、再び力無くよろめく春を支えてタオルで丁寧に全身を拭きあげた。
そして洗面所に置かれた春の寝る時用の服を一色着せ、また春を抱えてリビングに行き、ソファに座らせた。
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