157 / 236

第19話-13 春の誕生日

春は大粒の涙をボロボロとこぼし、それが頬を伝って何度も秋の肩に雫がこぼれ落ちていった。 春の表情は変わらず、ただただ溢れる涙だけがこぼれ落ちている。 「……ごめんね ごめん……ごめん…」 そう何度も呟きながら、春は涙をこぼしてただゆっくりと腰を動かした。 けれど結局春はそのままいくことなく、秋の中に入ったそれは次第に張りをなくし、春はそのまま秋の上に倒れ込んだ。 そうして小さく肩を震わせ始めた。 秋は突然の春の涙に混乱し、そのまま秋の上に倒れ込んだ春をただ強く抱きしめた。 「……どうしたの? …なんで泣いてるの? なんで…謝ってるの?」 そう尋ねても春はただ震えて泣くばかりで、春が初めて見せる大きな感情の波に驚いて秋は言葉を詰まらせる。 ふと、頭をよぎる。 先日覗き見た、春の日記だ。 秋と春が付き合うことになった日の日記。 そこにはただ一言、 “ こわい " と書かれていた。 震えて泣く春はまるで何かに怯えているようで、秋は小さな声で尋ねた。 「……こわいの?」 すると春は声を漏らし、震えて泣きながら小さな声で言った。 「……こわい…」 秋はその春の答えに再び言葉を詰まらせた。 しかしそれでも必死に言葉を紡ぐ。 「……何が…何が怖いの?」 春が言った。 「……最後は…ひとりになるのに」 「…秋の時間…奪って…甘えて…」 「…最低……最低…」 秋は胸を切り裂かれるような気持ちになった。 「……なんで…なんでそんなこと言うの?」 春はただ震えて泣き続けている。 秋は少し体勢を起こして上に乗っていた春をベッドに乗せ、そうして寝そべって泣き続ける春の顔を両手で掴んだ。 春の顔は苦痛に歪み、頬はすでに何度も流れ落ちた涙で濡れていた。 春の目線は伏せたまま、秋のことを見ない。

ともだちにシェアしよう!