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第19話-14 春の誕生日

秋は言う。 「…奪ってないでしょ…?」 「俺が選んで…春も選んで…一緒にいるんでしょ?」 「ひとりってなに?…最後って…なに?」  春は目を伏せたまま、また涙をこぼし、つぶやくように言った。 「秋…いつか…気付くよ…」 「…時間の無駄だったって…」 「間違いだったって…」 「……気持ち悪いって」 「春!」 秋が大きな声をあげた。 春が涙に濡れた大きな瞳を秋に向けた。 秋はじっと春を見つめている。 「…怒るよ」 春がした瞬きで、その瞳から大きな涙の粒がまた頬に落ちた。 秋はそれを少し乱暴に拭った。 そうして身体を起こし、春の手を引いて春の身体も起こして、二人は向かい合った。 「…怒る 俺もう…それ、また言ったら怒る」 そう低い声で言って、秋は続けて話し出した。 「俺が…毎日毎日…どんだけ…どんな思いで春の帰り待ってるか分かる? 毎朝…どんなふうに春を起こしてるか分かる? どんなふうに春を思って…曲作って…ご飯作って………それ全部…全部分かってる? 最後って……時間の無駄とか…間違いだとかって…なんでそうやって勝手に決めつけんの? それ全部分かって…そうやって言ってんの? 怖いって…俺から逃げないで 俺何回も…何百回も何千回も言ってるよね、好きって それ…聞いてないの?分かってないの?」 秋は一息にそう言って、春の手首を掴んでゆすった。 「俺が春に好きって言ってもらうたび、どんな気持ちになるか… 寝顔見るたび、笑ってる顔見るたび、美味しそうにご飯食べてくれる顔見るたび… 春とキスするたびに…触れて…触れられるたびになんて思うか分かる?どんなふうに思うか、分かる? もう一生…気持ち悪いとか…そういうふうに言わないで 自分のこと…春のことそんなふうに言わないで」 春は秋がそう言うと、そっと俯いてぼろぼろと涙をこぼし、また肩を震わせた。 秋が春を強く引き寄せて抱きしめた。 春が嗚咽を漏らす。 秋の目にもじんわりと涙が浮かんでくる。 けれど秋はなぜか悔しくて、目を何度も擦ってすぐに涙を拭いた。 そうして春が泣き止むまで、秋はずっと春を抱きしめ続けた。

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