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第20話-2 兆し
翌朝早く、春はデビュー公演のツアー、地方での公演開催につき、家を出ていった。
それを見送ってすぐ、秋は自室に篭り、春に送った楽曲のリリース登録作業を行なった。
秋は昨年事務所を辞めてから、CDの販売はせず、配信サイトで楽曲を登録して行う配信リリースのみで活動を続けていた。
これまで販売していたCDは事務所制作のもので、楽曲の著作権自体は秋にあるものの、原盤権という権利は事務所が未だ所持していた。
原盤権がなければ、楽曲をCDに焼き、それを販売することが出来ない。
その権利を買い取る、と言うこともできるのだが、秋にはそれをすぐに支払えるほどのお金はなかった。
ただ、ライブで演奏するのは自由だったので、秋はライブをするたびに自身の楽曲の配信ページを案内し、ファンにはそのサイトから自身の楽曲を聴いてもらえるように誘導していた。
なので、シンガーとしての儲けはごく僅かだったが、それでも秋は活動をするのが苦ではなかった。
加えて最近はシンガーとしてではなく作家としての儲けがあるため、秋にとってそれは大きな問題ではなくなっていた。
秋は、春がその曲を人前で歌って欲しい、と言ってくれたことが、とても嬉しかった。
春への好きがめいいっぱいに詰まった秋のその楽曲を、人前で歌うことを許してくれた。
それは、秋が春を好きでいることを許して認めてくれるような、そして春もその気持ちに応えてくれたような、そんなふうに思えた。
秋は本当ならば、春と付き合っていると言うことを、誰彼構わず大声で言いふらしたいくらいだった。
"
いいでしょ?
俺の恋人、かっこいいでしょ?かわいいでしょ?
"
そう言って回りたいくらい、春は秋にとって自慢の恋人だ。
でもそれをしないのは、春がそれを望まないと分かっているからだ。
春は男が好きであるということに大きなコンプレックスがあって、秋を好きでいること、こうして秋と付き合っていることを、どこか不安に思い、恐れを抱いている。
春が秋に触れる自分を気持ち悪いと卑下し、秋の時間を奪っている、と、酒に酔っておそらく本心として吐露した時、秋はああして怒ったが、今となっては怒りも悲しみもない。
春を理解したい、その一心だった。
春が不安に思うならば、不安がなくなるまで何度だって好きと伝えよう。
春とのことを誰にも言えなくたって、秋はそれで良かった。春のことが何よりも大切だからだ。
だからこそ、この楽曲は春以外の誰にも聞かせるつもりがなかった。
しかしそれを、春がみんなの前で歌って欲しい、と言った。
秋は、あの日春に伝えた言葉が春にちゃんと届いているような気がして、それがたまらなく、心から嬉しいと思った。
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