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第20話-4 兆し
目を開けると、外はすでに真っ暗だった。
秋はのそりとソファから起き上がった。
今日春はコンサートのために地方へ行き、そのままホテルに宿泊で、帰ってこない。
秋はあのまましばらく作業した後、リビングで軽く食事をとり、そのままうとうととして寝落ちしてしまっていた。
ふと壁にかかる時計に目をやると、すでに時刻は0時近かった。
シャワー浴びないと、と思いながらもふと携帯を手に取り、秋は思わず目を見開いた。
友人や知り合いからのメールが何百件と大量に届いていたからだ。
「な、なに…?」
そう呟いてメッセージアプリを開く。
すると、もうずっと連絡をとっていなかった中学時代の友人たちからもメッセージは届いており、秋はなんだか怖くなり、それを開くことなくただその通知をスクロールする。
その時、携帯が突然鳴り出した。
わっ、と声を上げ、画面を見ると、それは秋の姉・今瀬友希 からの着信だった。
「もしもし?」
「ちょ秋!やばいな!」
「え、なに?」
「いや何って…動画やん!」
「…動画?」
「あんた新しい曲の動画あげたやろ?それ…」
「めっちゃバズってんで」
「……へ?」
姉はその後も興奮した様子で話し続け、秋は要領を得ないままその電話を切った。
そうして先ほど花束を投稿した動画投稿アプリを開いた。
そして再び秋は目を見開いた。
先ほど投稿した花束の動画の再生数が、投稿してまだ半日ほどだと言うのに、60万回を超えていた。お気に入りはすでに7万件近くされ、コメントも5000件を超えている。
秋は震える手でコメント欄を開いた。
"鳥肌立った"、"歌詞刺さりすぎてやばい"、"今恋してるから余計響く"、"恋してる人みんな聴いてほしい"、"ライブで聴きたい!"
そんな称賛のコメントが所狭しと並んでいる。
「な、なにこれ…なにこれ……」
秋は思わず動揺してアプリを閉じた。
そうしてまだ震える手でいつも告知で使うSNSを開く。
そうしてまた目を見開いた。
昨日まで2000人程だったフォロワー数が、10万人を超えていた。スクロールするたびにその数字は増えていく。
秋は咄嗟に春とのトーク画面を開く。
しかし興奮していて、なんと打ち込んでいいのか分からない。
秋は高鳴る胸を抑え、ただ手を震わせた。
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