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第21話-4 忙しい日々
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その夜、秋は朝の約束通り、春を起きて迎えようとリビングでソファに座り、自身が出演したバラエティ番組を見返していた。
"話題のバスアーティスト!"と右上にはテロップが掲げられていて、画面の中の秋はひどく緊張した顔をしている。
秋はそんな自分を見て思わず苦笑いをした。
画面に映る秋が、司会者に尋ねられ、「花束」の作曲の経緯を話しだした。
恋人の誕生日プレゼントに作った、と秋が言うと、スタジオがわーっと沸いた。
テレビの前の秋は思わず赤面する。
「乗せられて俺…何言っちゃってんだよぉ…!」
そう画面の向こう、自分に叱りつけるように声をあげた。
しかしそんな今の自分とは裏腹に、秋は次々に照れた様子で話し続けた。
"高校の時から三年間ずっと好きで…" " 高嶺の花みたいな人で…卒業の日にやっと告白受けてくれて…"
秋が話すエピソードにスタジオは更に大きく沸いた。
秋は恥ずかしい…とつぶやきながら、ソファで赤面した顔を覆い隠し、あああ…と悲痛な唸り声をあげた。
秋のパートが終わってあっという間に次のアーティスト特集へ移り、そうして秋がやっと落ち着いた頃、ふと、春とテレビ局ですれ違った時のことを思い出し、まずかったかな…と秋は思い返した。
名前こそ出していないものの、そんなふうに好き勝手春とのことを話すべきじゃなかったのかも。
でも嘘つくの下手だしな…と秋は思う。
曲のことを聞かれてしまったら、秋の創作の源である春のエピソードがどうしても出てくる。
「花束」の話なら特にそうだ。
バラエティではこぞってみんな、花束の話を聞きたがる。
辿々しく嘘をついてスタジオを微妙な空気にする自分を想像して思わず身震いをした。
そうしてすぐ、秋は…まあ大丈夫か、と思い直した。
まさかあの壱川春が、ポッと出の新人歌手と、しかも男同士で付き合ってるなんて誰も思いはしないだろう。
名前や具体的なエピソードを避けていれば大丈夫なはずだ。
そうして勝手に1人でに安心し、秋はまだかな、と春を待ちぼうける。
秋の頭の中はすぐに春のことでいっぱいになった。
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