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第22話-1 災いの中のひととき

その日春を送り出してから、秋はじくじくと痛む頭を抱え、家を出るまでの数時間で家事を終わらせてしまおう、と掃除機をかけていた。 季節はすっかり冬になり、春はまた年末年始に向けて忙しく働いていた。 夜中に帰っては朝方に出かけ、そうしてまた疲れた顔をして帰宅し、秋の作ったご飯さえもごめん、明日食べるね、と一口だけ口をつけて残す、と言った具合だった。 日中現場でもほとんど何も食べていないようで、つい先日致した際、服を脱いだ春の体が明らかに薄く細くなっていて、秋はとにかく心配だった。 なんとか少しでも食べてもらおう、と食べやすいスープや春の好物を用意するようにしても、春の食欲はあまり変わらず、とにかくひどく疲れているようだった。 それもそのはず、春はこれまでのアイドル活動に加え、来年2021年の春頃についにソロアーティストデビューをすることが決まっていた。 年末年始の特番収録、アイドルグループ活動、そして俳優としてドラマと並行して映画の撮影を行い、また、事務所に所属するアーティストが一同に会する年末年始のコンサートのリハーサル、そしてソロ活動の準備。 そうした多量の仕事がスケジュールを圧迫し、毎日分刻み、いや、秒刻み単位でスケジュールをこなしていた。 秋は秋で引き続き忙しく、新曲のリリースを記念した大箱ライブハウスツアーやその準備で忙しく全国を回っていた。 そのプロモーションのためのバラエティ出演を行いながらも、つい先日バラエティのレギュラー出演が始まり、またそれに加えて向井からは相変わらず劇伴の仕事の依頼を受けていて、休みで家にいてもずっとパソコンと向き合っている、といった様子だった。 最近忙しいからかな、と頭痛のワケを一人導き、しかし今が踏ん張りどころだ、春も頑張ってるんだから、と秋は家に常備していた頭痛薬を飲んで、重い足取りで掃除機をつれて部屋を駆けずり回った。

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