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第22話-6 災いの中のひととき

そうして春はその2日後、無事に退院して帰宅した。 その頃には二人ともすっかり熱は下がっていたものの、感染拡大防止のために自宅待機期間を余儀なくされ、1週間の突然の休みが出来た。 二人はベッドに仰向けに寝そべり、天井を見上げていた。 すると秋が拗ねたように言った。 「1週間もあるなら旅行でも行きたかった」 春はそれを聞いてふふ、と優しく微笑んだ。 「行くならどこ行きたいの?」 「えー…どこだろ、え、沖縄…とか?」 「沖縄?好きなの?」 「いや、行ったことないんだけど…行きたくない…?なんかほら…海!みたいな」 そう言って春は行ったことある?と秋は尋ねた。 「あるよ 撮影で行ったから観光とかしてないけど」 「へぇ〜…いいなぁ〜…」 「…今度行けたらいいね」 「…うん …春と旅行とか…夢みたい」 「ふふ、大袈裟だよ」 「大袈裟じゃないよ 何日も独り占めできるんでしょ?」 「…今もそうだよ」 「えー、そんなことない、だって仕事に春に取られてる」 春はそれにふふ、とまた笑って、秋をじっと見て言った。 「僕も仕事に秋取られてるよ」 秋はそれに嬉しそうに微笑んだ。 「…春も俺いない時、寂しいなぁとか思う?」 「思うよ」 「…じゃあそん時言ってよ いつも大丈夫だよ、食べてるよ、しか言わない」 「それは秋がそうやって聞いてくれるから」 「違う、聞かなくても言って欲しいの!」 そう拗ねたように言ったあと、秋は少し顔を赤らめて言った。 「会いたくなったって言ってくれて…めっちゃ嬉しかった」 そう言った秋がこてん、と春の方に向き直り、物欲しそうに春の服の袖を掴んだ。 すると春も小さく寝返りを打ち、秋の方を向いた。 秋が小さく尋ねる。 「……まだ…しんどい?」 すると春はそっと秋の腰に手を回し、秋の耳元で言った。 「…しんどくないよ」 春のその言葉を合図に、秋はそっと春の首元に唇を落とした。

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