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第23話-2 束の間の
スタジオには人が溢れかえり、入れ替わり立ち替わり人が出入りするのの邪魔にならぬようにと、秋とマネージャーは端の方に置かれていたパイプ椅子に腰掛けた。
「間も無くです!スタンバイお願いします!」
そう言ったスタッフの声に、秋とは反対側、スタジオの端に待機していたMELONYがスタジオセットに入る。
そうしてすぐにポジションにつき、ポーズを取った。
スタッフのカウントダウンの声がかかり、カメラ前に待機していたアナウンサーがMELONYの紹介をし、タイトルコールをした。
イントロが鳴る。
さっ、と5人が動き出した。
音に合わせ、リズムに沿うように彼らは大胆かつ丁寧に踊る。
一糸乱れぬその動きに、秋や、そうして周りにいたスタッフたちはハッと息を呑んだ。
すごい――。
深夜4時過ぎ、すでに生放送は始まって4時間を超えている。
番組スタッフたちにも先ほどまで強く疲労を滲ませていたのに、彼らは一瞬でそれを吹き飛ばした。
スッと静かに息を吸う音がマイクを震わせ、その直後に放たれた春の声に、またスタジオの誰もが息を呑んだ。
芯のぶれない確かなその歌声はまっすぐに伸びながらも、優しく甘い響きを帯び、スタジオ全体を優しく包み込んでいく。
強さと柔らかさ、その相反する要素が同居する歌声は、まるで乾いた喉を潤す水のように透き通り、そして時折絡みつく蜜のように甘ったるく響いた。
誰もがただ春のその声に耳を奪われた。
――
秋は放心状態でテレビ局の地下駐車場、エレベーターホールからすぐ近くにある自販機の前のベンチに腰掛けていた。
すでに番組のプロデューサーやスタッフに挨拶を済ませ、荷物を抱えている。
マネージャーがじゃあ行きますよ、と秋のギターを抱え、秋に声をかけたが、秋はそれに首を振る。
「ああ、いや、俺ちょっとこのまま…人と会う用事あって…」
そうですか、とマネージャーは頷き、じゃあギターはこちらで預かっておきますね、とそそくさと帰って行った。
するとざわざわと人の声が聞こえはじめ、秋は思わず隠れるように自販機の影に身を潜めた。
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