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第23話-7 束の間の
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翌日、秋は朝早くスーパーに出かけて大量の食品を買い込んできた。
そうしてキッチンの戸棚から大きな箱を取り出した。
「じゃーん!」
そう言って秋が箱から取り出したのは、ホットプレートだった。
「鉄板焼きパーティしよう!」
秋のその言葉に、春が嬉しそうに微笑んだ。
部屋中に肉の焼けるいい匂いが漂う。
「ん〜!!美味しい〜!!」
秋は肉を頬張り、眉を下げて感嘆の声を上げる。それを見て春は優しく微笑んだ。
そして秋は間髪入れずにグラスに注いだビールをゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。
「カァ〜!!」
そう言った秋に春はあはは、と笑った。
秋が20歳の誕生日を迎えてから、春と飲むのはこれが初めてだった。
秋が20歳になってから早3ヶ月ほど、誕生日当日に仕事現場で飲んでからすっかりお酒が好きになり、時たま友人と飲みに出かけたりもしていたが、春が飲めないことを知っていたので、家で飲むことはなかった。
しかし秋の中で春と飲んでみたい、と言う微かな望みがあり、休みの今日なら、といくつか酒を買い込んできたのだ。
無理して飲まなくていいからね、と言ったものの、春は飲みたい、と言い、秋がそうして飲み干した後、自分のグラスに入ったビールを一口飲んだ。そうして秋がしたように、カァ〜と言った。
秋はそれにあはは、と声をあげて笑う。
「ビール苦いんじゃない?」
「…苦い」
「でしょ?ほら、こういうのもあるよ」
そう言って秋はアルコール度数の低いカクテルチューハイを差し出す。が、春はこれがいい、とビールの入ったグラスを離さない。
「同じの飲みたい」
そう言った春にたまらず、秋はちゅ、と軽くキスをした。
「無理しちゃダメだからね」
そうして数十分後、春はすっかり箸を置き、耳を真っ赤にして目をトロンとさせて頭をガクンと項垂れさせて俯いていた。
それに気付き、秋はあ〜、と声を上げる。
「本当に一口でこれになっちゃうんだね?」
う〜ん…と春は俯きながらそう呟いた。
秋も箸を置き、ゆらゆらと身体を揺らす春を支えるようにして言う。
「…ちょっと寝る?」
すると春は首を横に振り、食べる…と呟くように言った。
「食べられないでしょ?夜も鉄板するから…ね?」
それでも春は納得しない様子で、また箸を手に取った。
そうしてゆっくりと肉を口に運び、もそもそと口を動かす。しかしいつまで経っても飲み込まず、秋はそれに困ったように笑みをこぼす。
「ほらぁ……後で食べよ?ね?」
そう言って春の手から箸を取り上げて支えるようにして立ちあがろうとした時、春が言った。
「……シャワー…」
春のその発言に、秋は思わず吹き出した。
「…シャワー!?なんで?」
そう笑いながら尋ねるも、春は同じようにシャワー、としか言わない。
秋は笑いながら続ける。
「…なんで酔っ払うとシャワー浴びたがんの…?朝入ったばっかでしょ?」
「…匂い…」
「…匂いなんか俺も同じだから…部屋中匂いその匂いだから意味ないよ」
「…シャワー…」
あはは、と秋は声をあげて笑い、ほらもう行くよ、とベッドに連れて行こうとするも、春は頑なに動かない。
秋は仕方なく、ダイニングデーブルのすぐそばのソファに春を運んだ。
そうしてすぐに寝息を立て始めた春を眺めながら、秋は酒を煽る。
お酒っていつか強くなんのかな…とポツリと呟き、気持ちよさそうに眠る春を見て、秋はまたふふ、と笑みをこぼした。
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