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第24話-5 好きなところ
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あれもこれもと買い込んですっかり両手に大荷物を抱え、秋はスーパーから歩いて帰宅していた。
年末年始の忙しさで冷蔵庫はほぼ空っぽで、朝にスーパーに行ったときはいつもと違う少し良いスーパーに出向いたせいで若干値段に怖気付き、昼食べる分だけしか買えていなかった。
やっぱり行き慣れたところが落ち着くな、なんて秋がぼんやり考えながら歩いていると、突然、あの、と声をかけられた。
振り向くとそこには秋と同じ年代か少し上くらいの男性がいた。
「あの…今瀬秋さんですよね?」
「えっ、あ、あ、はい」
「いつもテレビで見てます」
秋はパッと表情を明るくさせた。
こうして外で声をかけられるのは初めてのことだった。
「え、ありがとうございます…!」
そう秋が明るく返事をすると、その男性はにこりと微笑んだ。
「いつも音楽聴いてます」
「え〜っ…嬉しいです、ありがとうございます!」
「良かったら…サインもらえませんか?」
「え、も、もちろん!俺なんかので良ければ…」
そうして両手に抱えた袋を持って秋がモタモタとしていると、男性はあはは、と笑い、僕持っておきますよ、と言った。
秋はそれに甘え、良いんですか…?と、その男性に袋を預ける。
すると男性はちら、と袋を見て、言った。
「あれですか?"花束"の恋人さんと今日はお家でゆっくり過ごされるんですか?」
そう尋ねられ、秋はあはは…と照れくさそうに頭を掻く。
「今瀬さんが買い物担当なんですか?」
「あ、ああ…そう…ですね」
「へえ、良いですね もしかして料理も今瀬さんが?」
「えっ、あ、あ、はい、あはは、まあ…」
凄いなぁ、と言いながら、男性はポケットからサインペンを取り出して秋に手渡した。
そうして続けて小さなハガキのようなものを秋に手渡した。
秋もそれと交換するようにすみません、と残ったスーパーの袋を手渡す。
そうしてその紙に視線を落とし、秋は思わず目を見開いた。
そしてパッと顔を上げて男性を見た。
すると男性は先ほどまでの笑顔が嘘のように、鋭い目線で秋を見ていた。
そうしてニヤリ、と片方の口角をあげ、言った。
「…僕、嘘ついちゃいました」
そう言って両手に持っていた袋をバサっと乱暴に床に置き、ポケットから何枚も同じサイズの紙を取り出して秋に手渡した。
秋はそれを震える手で受け取り、震える息を押さえながら目を通す。
それらはプリントアウトされた写真で、
その全てには春と秋が写っていた。
すると男性の後ろから一人、同じくらいの年代の男性が現れ、秋に向けて動画を撮り始めた。
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