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第25話-1 炎上
秋が家に戻ったのは、家を出てから4時間後のことだった。
玄関を開けると、春がすぐに飛び出してきた。
そうして泣きじゃくる秋の隣にいる松山淳を見て、春はどうしたの、と震える声で尋ねた。
「中入って良い?」
松山がそう尋ねると、春はすぐに頷いた。
秋と松山はソファに腰掛け、春はソファのすぐそばの床に座った。
泣き続ける秋を心配そうに見ている。
松山は秋から受け取った写真と一枚の名刺を取り出し、ソファ前のローテーブルに置いた。
春がそれを手に取り、表情を変化させた。
春の強い動揺が感じ取れた。
松山が口を開く。
「さっきそれ、渡されたんだって それでどうすれば良いか分からなくて、うちに来て」
松山が続ける。
「それ、名刺の SNSで芸能のゴシップ扱ってる週刊誌気取りの悪質な集団 事前連絡もなしに平気でそういう写真ネットにあげて、面白おかしく記事にして広告で稼いでる」
「だから、事務所に連絡いかないから…自分たちで連絡入れた方がいいと思う 多分、事務所の力でテレビとかには取り上げられないけど…今みんなSNS鵜呑みにするし…そういう写真があるんなら…なおさらだと思う」
春はそっと写真を置き、巻き込んでごめんね、と松山に言った。
その手は少し、震えていた。
松山はううん、と静かに首を振り、今日はとりあえず帰るね、と言って家を出て行った。
春が松山を見送りリビングに戻ると、秋は姿勢を変えずソファに座ったまま俯き、ボロボロと涙をこぼしていた。
そっと春が隣に座って、そんな秋の背中をそっとさすった。
それに秋は堪えきれず、嗚咽を漏らし、消え入りそうな声で言った。
「……ごめん」
春は静かな声で、尋ねる。
「……なんで秋が謝るの?」
「……俺のせいで……俺が春と外出たいとか…ご飯食べたいとか……そういうの言ったから…だから…」
「……秋のせいじゃないよ」
「俺のせいだよ…俺が…俺がそんなん言わなかったら……」
すると春がふっと笑って、机から一枚写真を取り出した。神社で撮られた写真。
それを顔の前でひらひらとさせて、春は言った。
「これは僕のせいでしょ?」
そう言って春は笑うが、唇は小さく震えていて、春が無理に笑っているのが分かった。
秋は春のその顔を見て、春の痛みが伝わってくるようで辛くて苦しくて、拳をギュッと握りしめ、声を漏らして涙を流した。
春はただそっと、そんな秋の背中を優しく撫でた。
そうしてしばらくして、春が震える声で言った。
「……泣かせて……ごめんね」
その声にふと顔を上げると、春は秋を見つめたまま、その目に溢れんばかりの雫を溜めていた。
そうして瞬きをして、その雫が頬に流れた。
秋はそれを見て、たまらず震える手で春を強く抱きしめた。
耳元で小さく春が息を漏らして肩を震わせた。
「……ごめん…ごめん……春…ごめん……」
小さく春が首を横に振る。
それでも秋は何度も何度もそうしてごめん、と繰り返した。
そうしてしばらくして、春が大きく息を吸い込み、すっと秋から身を離した。
そうして涙を拭いて、微笑んで言った。
「謝らないで 秋は何も悪くないから」
秋は顔を歪め、言う。
「……無理して笑わないでよ」
「無理してないよ」
「……してるよ」
そうしてまた嗚咽を漏らして涙を流す秋に、春が言った。
「松永さんに連絡するから…秋もマネージャーの人に連絡して」
「…うん」
そうして春は立ち上がり、リビングを出て行った。
――
その後、互いがマネージャーに連絡を入れ、事態の大きさから二人とも迎えが来てそれぞれ事務所に向かうこととなった。
そうして日が回り、午前0時ちょうど、突如アップされた写真と記事に、SNSは大騒然となった。
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