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第26話-4 選んで

――――また電話していい? あの日春にそう告げて以来、秋は一度も春に電話をしていなかった。 春はあれから1ヶ月間ずっとホテル住まいで、一度も自宅に帰ってきていない。 自宅周辺には依然として多くの記者が張り込んでおり、時折様子を伺いにやってくる松永から霧峰に報告が入り、霧峰が春にホテル暮らしを指示しているらしい。 一緒に暮らしていた頃は、春から週ごとのスケジュールが送られてきて、秋はそれを見ながら「今日は何時に終わるのか」「どんな仕事なのか」を把握できていた。 だが今はそれもない。 春の一日がどんなものなのか、秋には全く分からなかった。 「仕事中かな」 「疲れてるだろうな」 「今は、俺と話したくないかも」 そんな考えが頭をよぎるたび、秋は迷っては電話をやめた。 そして毎晩、「おやすみ」とだけメッセージを送った。 春からも「おやすみ」とだけ簡素な返事が届く。 秋はそれを翌朝、何度も見返してはやり切れない気持ちでため息をついた。 ――春に会いたい。 その想いは、秋にとって次第に「贅沢すぎる望み」になっていった。 春は、俺に会いたいなんて思っていないのかもしれない。 自分と付き合ったせいで、春はしなくてもいい悲しい思いをさせられたのかもしれない。 秋と付き合ったことを、秋の手を取ったことを、後悔しているのかもしれない。 春が拒んでいるうちに、諦めていた方が、春は幸せだったのかもしれない。 日が経つたびに、秋の胸はそんな重苦しい考えで埋め尽くされていった。 ――――

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