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第27話-2 それぞれの翌日
2人になり、霧峰はすっと秋を見据えて言った。
「昨日会ったんだってね、春に」
「えっ…あ、はい……あ…の…勝手に…すみません…」
「いいわよ謝らなくて。事情は松永から聞いてる」
そうして何も言わずに俯いた秋に、
霧峰は続けて言った。
「その顔は、どういう?喧嘩でもした?」
その問いに、秋は力無く首を横に振った。
「喧嘩は…してないですけど…」
「けど?」
「…別れた方が…いいのかなって…
思ったりしちゃって」
秋のその言葉に、霧峰はそれまでよりも優しい声色で、どうして?と尋ねた。
その優しい口調に導かれるように、秋はゆっくりと話し出した。
「俺といると…春を苦しめてしまうなって…昨日…すごい思って」
「春がそう言ったの?」
「言ってない…ですけど…だけど……」
霧峰はじっと、秋の言葉を待つように秋の目を見た。
その真剣な眼差しに、秋はつい目を背けてしまった。
楽屋に静寂に包まれる。
すると霧峰がそっと尋ねた。
「今瀬くんは春といて、苦しいの?」
その言葉に、秋はそっと視線をあげて霧峰を見た。霧峰は変わらない凛とした表情で秋を見ていた。
眉を顰め、痛みを堪えているような表情で、秋は言った。
「…春が苦しいなら、俺も苦しいです」
「俺は…春を苦しめたくないです」
霧峰は静かに尋ねた。
「どうして?」
その問いに、秋は小さく呟くように言った。
「…好きだから」
すると霧峰は小さく微笑んで、うん、と頷いた。
その声はとても優しかった。
その声を聞いて、ふと秋の目にじんわりと涙が滲んだ。必死に抑えようと何度も瞬きを繰り返すが、それでも追いつかず、ついにぽろぽろと雫がこぼれ落ちた。
そうして秋は顔を歪め、吐き出すように静かに話し出した。
「…付き合う前…初めて俺が好きだって言った時に…友達でいたいって言われたのに」
「その後も…何回好きだって…友達じゃ嫌だって俺が言って…でも…"これ以上踏み込むのやめよう"って…"お互い幸せになれないよ"って…そう言われたのに…」
「…俺分かんなかったんです、
何も…分かってなかったんです、ずっと…
…この1ヶ月…いろんな人にいろんなこと…言われたり…親からの電話とか…友達からの連絡とか…そういうの…出れなかったりとか…
そういうのを…そうなるのを…春は知ってて…春はそういうのが…嫌で…だから線を引いて…そう言ってくれてたのにって…」
涙は止まらず、雫は机に落ち、その水滴は重なって広がっていく。
秋は続けて言った。
「…春、何回も言うんです
"気持ち悪い"って…自分のこと…そういうふうに…"秋の時間奪ってる"とか…
昨日だって…"秋が嫌になったら、無理になったらすぐに別れるから"って言うんです
俺もう…何回も…ずっと…!
付き合ってからずっとずっと、好きだって…ずっと一緒にいたいって何回も何回も言ってるのに…!
…そうやって……一緒にいる未来とか…信じてもらうこととか出来なくて…」
「俺じゃ伝えられないんです…
俺じゃ…春のこと安心させられなくて……苦しめるばっかなんです
俺じゃ…俺なんかじゃだめなんだって…!」
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