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第27話-7 それぞれの翌日

次々に出演者が入れ替わり曲を披露し、ついに最後のアーティスト、秋の出番がやってきた。 が、そこでCMが入る。 なんとなく肩に力が入ってしまっているメンバー一同は、ふう、と息を吐く。 そうして皆、ちらっと春を見る。 春はCMに入っても変わらず画面をずっと眺めたままだ。その表情からは何も読み取れない。 いつもの"壱川春"だ。 と、その時、控え室の扉が開いて、ソロでの撮影を終えたリーダーである日向悠斗が戻ってきた。 そうして"次、春撮影だって"、と春に声をかけた。 春はうん、と言い、すぐに立ち上がった。 が、その手を上条が掴んだ。 そうして上条は言った。 「俺、先行っていい?」 春は少し驚いた様子で上条を見つめ、戸惑ったように何度か瞬きをした。 すると上条は春の返事を待たずして、そのまま立ち上がってお先、とそそくさと控え室を出て行った。 立ちすくんだままの春の腕を渡邊が引き、春はゆっくりと再び椅子に腰を下ろした。 そうしてCMが明け、とうとう画面には秋が映し出された。 画面左上には"SNSで話題沸騰の一曲"と表示されている。 ひな壇でのアーティストとMCとのやりとりでも"SNSで話題になっている"ということには触れられていたが、しかし"なぜ話題になっているのか"という事は一切触れられなかった。 秋自身も特にそれに言及せず、いつものように明るく人懐っこいキャラクターで受け答えをしていた。 画面に映し出された秋は目を伏せたまま、じっと動かない。 先ほどのトークでの天真爛漫な様子とは一変し、静かな表情を浮かべている。 しかしそうっと目を開き、やがて優しく微笑んだ。 そうしてふっと目線を落とし、ギターに手をかける。 静寂の中、秋が弾いたギターの弦の音が響いた。 まあるく溶け込むような、優しい音色。 そうしてしばらくギターの音色だけが響いた後、すっと息を吸い込み、秋が歌い出した。 優しく、温かい、歌声が響く。

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