216 / 236
第27話-10 それぞれの翌日
――
――
24時過ぎ。
霧峰の元に、一件のメッセージが入った。
"お時間ある時に話したいです" というメッセージの通知を確認し、それが春からのものだと分かると、霧峰はすぐに携帯を手に取った。
そうして霧峰は春に電話をかける。
数コール響いたのち、春が電話に出た。
「お疲れさま」
『お疲れ様です …すみません、夜遅くに』
「いや どうしたの?」
『……家に…帰りたくて』
春のその言葉に、霧峰はふっと頬を緩める。
が、すっと表情を戻して言った。
「マンション前は相変わらず人でごった返してるらしいけど」
ネットの報道後、上げられた写真から春らが住むマンションが特定され、記者だけでは無く、春や秋のファン、その他野次馬たちがひっきりなしにマンション付近を彷徨くようになっていた。
霧峰はそれを予見し、春に自宅には帰らないように命じていた。
春が自宅へ戻っていないことはすでにSNS上で情報が出回り、報道から1ヶ月経った今では待ち伏せしているような人もかなり減っているらしい、というのは頻繁にマンション近辺を見回りに行っている春のマネージャーである松永から聞いた話ではあるが、それでも霧峰はそう尋ねた。
「それでも帰る?」
『…はい』
そんな春の返事から春の思いが見え透いて、ふふ、と霧峰は思わず微笑んだが、電話越しに伝わらないように少し厳しい口調でダメよ、と言った。
そうして続けて言った。
「落ち着いたら言おうと思っていたけど、今の家は引き払いなさい あれだけネットに家の情報が出てるんじゃ、危なくて家に返せないわよ」
『…でも…』
「新しい家はすでに手配してるからそうしなさい 家に帰りたいなら、今日はそこに帰りなさい 布団とか毛布くらいなら今からでもすぐ松永が用意出来るから」
そう言ったものの電話越しに沈黙が続き、霧峰はついに核心をついて、言った。
「家に帰りたいんじゃなくて、会いたいんでしょう」
するとしばらくの沈黙のあと、観念したように、春が小さな声で言った。
『………はい』
それに…と、春は続ける。
『引っ越すなら…先に…言わないと…』
「今瀬くんに?」
『はい』
「もう言ったわ」
『…え?』
霧峰は電話を耳から話し、目の前にいた秋に手渡した。
霧峰と秋は今、まさにその"手配した"というマンションの一室にいた。
ともだちにシェアしよう!

