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第28話-2 "言えなかったから"

―― それからしばらくして、松永が大きな荷物を抱えてやってきた。そして松永と共にやってきたもう1人の男性も、同じく大きな荷物を抱えていた。 「ちょっと、あんたたち手伝いなさい」 そう言って大きな荷物を春と秋にそれぞれ手渡す。 その荷物とは、布団や毛布だった。 春の家に送り届けた後、急いで遅くまでやっているショップにでも買いに行ったのだろう。 「わ…ありがとうございます…!」 そう松永に言った後、秋は見慣れない男性に目を合わせた。年齢は30歳ほどか。体格が良くいかにもスポーツマン、と言った様子で、清潔感のある爽やかな男性だ。 すると、その男性がニコリと笑い、大きく元気な声で話し出した。 「初めまして!伊丹良太(いたみりょうた)と言います!霧峰社長のアシスタントをしております!」 「あっ…今瀬秋と言います…!」 そう秋が自己紹介をすると、もちろん存じ上げてますよ!と元気な声で伊丹は返事をした。 松永はちょっと上がるわよ、とまだある大荷物を抱え、部屋に入っていく。春と秋、そして伊丹もそれに続いて、部屋に入る。 新しい家になるこの家は以前の家よりも少し広く、そして部屋数も一つ増えた。 まだ何もない部屋はより広く見える。 新居なのか、隅々までつるつると綺麗だ。 松永は布団の他に、小型の電気ヒーター、数枚のバスタオル、ドライヤー、電気ケトル、そしてシャンプーなどの日用品、揃いのスウェットや下着類、加えて水数本やコンビニのおにぎりなどを買い込んできてくれていた。 秋はそれに目を輝かせ、松永を見て再びお礼を言った。春もペコリと頭を下げ、それに続いた。 「何かすぐに必要なものがあったら、しばらくは私に連絡をして。間違っても自分たちで取りに行ったりはしないようにね。もう少し日を置いて、大きな荷物はまとめて運ぶから」 あと、と松永は2人を見据えて言った。 「2人で外に出るのは辞めて。どうしてもって時は、私に必ず相談して。なるべく叶えるようにはする。諦めてもらうこともあるだろうけど…」 2人はそれに、静かに頷いた。 そうしてじゃあまた明日、と玄関に向かう松永と伊丹に、秋は言った。 「ここまでしてもらって…本当に…ありがとうございます…!」 すると松永は笑って言った。 「お礼は霧峰さんに言って。全部あの人のポケットマネーだから」 そう言ってチラリと持ってきた荷物たちに視線をやる。 そうしてから再び秋を見て、言った。 「あの人、随分あなたのこと気に入ったみたいで… …あはは、ねえ?」 そう笑って、松永は伊丹に目線を向けた。 すると伊丹もニコッと笑い、言った。 「霧峰さんが車内で流す音楽、最近もうずっとエンドレスで今瀬さんっすよ!上機嫌に口ずさんだりしちゃって…」 その言葉に、秋はえっ、と声を上げ、たちまち顔を赤くした。 そうして言葉にならない言葉を上げながら春を見ると、春は優しく微笑んだ。 そうして2人が見合っていると、松永があ、と声を発した。 2人が松永を見ると、松永は春を見据えて、言った。 「霧峰さんから伝言があったんだったわ」 春が不思議そうな顔をすると、松永はニヤリと笑って春に言った。 「守ってもらってばかりじゃダメよ、って 今度は… 春が今瀬くんを守りなさい」 だってさ、とコミカルに締めた松永に、春は一度目を伏せ、しかし静かに噛み締めるように、はい、と頷いた。 ――

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