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第29話-2 好きだけじゃだめ?
「勝手に色々見るのもアレなんで、何でもかんでも詰め込んで持ってきちゃいました!」
そう言っていっぱいの段ボールに3〜4つも抱えてきてくれた伊丹は、相変わらず爽やかな雰囲気を纏い、はつらつとした様子で話す。
それまでなんとなくモヤっとした気持ちだった秋も、伊丹のその様子につい釣られ、すっかり気が晴れてくる。
「あっ!あと…これは…」
そう言って伊丹がコソッと手渡してきたのは、夜のアレコレに使うようなゴムやローションなどだった。
「!?!」
それを見て言葉にならないような声を上げそれを隠すように取り上げた秋に、伊丹はハハッ!と笑い声をあげ、続けて言った。
「いやぁ、霧峰さんも出入りするし、そろそろ家具の廃棄も始まるんで…霧峰さんに見つかるよりはいいかと思って」
顔を真っ赤にした秋に、伊丹は続けて笑って言う。
「こういうのはね、いくらあっても困りませんから!」
「……お気遣い…ありがとうございます……」
消え入りそうな声でそう言った秋に、伊丹は話題を変えるようにして言った。
「壱川さんはそろそろですか?」
「えっ、あ…ああ…いや、もうちょっと…遅いですかね、多分…1時くらいかな…」
「はぁ〜!働きますねぇ〜!まあ、今瀬さんもですよね!今日も今まで収録だったんですよね?」
「そうですけど、いや、春に比べたら全然…」
「いやいや、毎日こんな遅くまでご苦労様です!」
「いやいやいや…というか…伊丹さんも本当…こんな夜遅くにすみません…!」
「あは!俺は全然大丈夫ですよ!体力だけはあるんで!」
そう言ってニカッ!と笑った伊丹だったが、そのすぐ後、あっ…と表情を変えた。
秋はそれに不思議そうな顔をする。
すると伊丹は気まずそうに、秋に尋ねた。
「…聞こえました?」
「え?何がですか?」
「あっ!いや…聞こえてなかったか、いや、今腹がグーってなっちゃって、あはは!」
夕飯食べ損ねちゃって、と伊丹は快活に笑った。
秋もそれに釣られて吹き出し、そうしてはっと思いついたようにキッチンへ行くと、冷蔵庫を開けて皿に乗った炒め物を取り出して言った。
「昨日の残りですけど…食べます?」
伊丹はえっ、と声を上げてその炒め物をじーっと見た後、大丈夫です!と声を放ってすぐ、ぐーっとまた腹を鳴らした。それはおそらく先ほどよりも大きく鳴り、秋にまで音が届いて、つい秋も吹き出して笑ってしまう。伊丹も笑い声をあげた。
「やっぱ…頂いてもいいですか?」
もちろん、と秋は10分待ってくださいね、と、炒め物を温める間に簡単に副菜を用意する。
その手際の良さに伊丹は感心するような声を上げる。
「毎日作ってるんですか?」
「あー、まあ…出来る時はって感じですけどね」
「へぇ〜…嬉しいでしょうねぇ、壱川さん」
「あはは、だと良いですけど…忙しいと食が細くなるんですよね…から、これは昨日春が食べなかったやつで」
「えっ、そんな、俺が頂いて良いんです?」
「全然!有難いくらいですよ!」
そうしてあっという間に味噌汁まで拵え、テーブルにはメインの他に数品の副菜が並ぶ。伊丹は感心したような声を上げたあと、携帯を取り出して秋に尋ねる。
「写真撮って良いですか?」
「えっ?写真?え、これの?」
「はい!いや、あまりに完璧だから」
「えっ…え、全然良いっすけど…」
秋が戸惑いながらもそう言うと、パシャパシャと伊丹はテーブルに並んだ食事の写真を撮り出した。秋はなんとなく気恥ずかしく、落ち着かないような様子でそれを眺める。すると伊丹は言う。
「大丈夫っすよ!週刊誌に売ったりしませんから」
思わぬ発言に秋は目を丸くする。
そうして少し間をおいて、え絶対やめてくださいよ!と言った。
伊丹はそれにまた快活に笑い、じゃあ頂きます!と丁寧に手を合わせ、豪快に食べ始めた。うま〜!と大きな声を上げる伊丹に、秋の顔は思わず綻んでしまう。
「なんか…そんな嬉しそうに食べてもらえると、こっちまで嬉しいです」
「あは!いやでも、いつもそうなんじゃないです?」
「まあ…けど、まあ…ほら、あんま感情大きく出す人じゃないから、伊丹さんみたいに」
それに、と秋は続ける。
「写真とか撮ってくれたこととかないな、とか…さっき思っちゃいました」
「そうなんです?」
「はい、いやまあ…そういう人じゃないんで…あれですけど…」
すると、伊丹は少し間を置いた後、秋に優しく尋ねた。
「…上手くいってないんですか?」
「…えっ!?え、なんでですか!?」
「なんか…そういう感じかと」
「いや全然…上手くいってると思ってますけど…」
「そうですか?なんか…不満げだったように思ったんで」
「そんなことは…」
「そうです?じゃあ全然、良いんですけど」
そうしてまた豪快に食べ進める伊丹を眺めながら、不満げ、と言われたことをきっかけに、秋は先ほどまで考えていた世間の声についての違和感を、改めて思い出してしまった。
その表情を見て秋の異変に気付いたのか、伊丹は一度箸を置く。
それをきっかけに、秋はぽつりと先ほどまで考えていた――最近1人になると考えること――をこぼした。
伊丹は静かにそれを聞いた後、秋を見据えて言った。
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