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第29話-5 好きだけじゃだめ?

翌朝、携帯の着信で目が覚める。 あのままソファで寝落ちしてしまったようだ。 「…しもしぃ…」 寝ぼけた声で出たその電話先は、春のマネージャーである松永であった。 『もしもし!?!今瀬くん今どこ?!』 「…ぇえ?い…家ですけどぉ…」 『は?!え、じゃあなんで電話出ない?』 「え…?電話ぁ…?」 『いやもう何回も春の携帯にかけてんだけど出ないじゃない?!』 そうして話していて秋はハッとして身を起こした。 今起こします!と咄嗟に返事をして電話を切り、寝室へ向かう。 春はいつものように静かに寝息を立てて眠っている。 広いベットの片隅――秋がいつも眠る側をあけて――で、もう癖になっているのか、開いたスペースの方に体を向け、眠っている。 秋はそっと春の髪に触れる。 少し癖のかかったしかし柔らかく細い髪が秋の指に絡まる。 やっぱりいつものようにじんわり温かい気持ちが込み上げる。 好き。やっぱり、好きだ。 でも、これだけじゃだめなのかな。 いつまでも、続かないのか――。 そう頭によぎった考えを振り落とし、春、と声を掛けて慌てて揺り起こす。 まだぼんやりとした春に、ごめん俺寝坊しちゃって、すぐ用意しないと、と声を掛ける。 春は理解したのかしていないのか、うーん…と小さく声を上げる。 そうしてゆっくり開いたまだ潤んだ瞳で秋を捉えた後、秋、と小さくつぶやいた。 「ん?」 「…ごめんね」 そう小さな声で言った春に、秋は一瞬ためらい、しかし何が?と尋ねる。 春はじっと秋を見つめた後、言った。 「…分かんなくて…考えても…なにも…分かんなくて …秋、怒ってる?」 秋は小さく首を横に振り、言う。 「…怒ってないよ」 じっと秋を見ていた春は秋のその言葉の真意を探るように表情を覗いたあと、ふっと静かに伏せ、そのまま瞬きをしながら小さく息を繰り返した。 沈黙が続く。 秋は再び春に起きないと、と声をかけ、春の髪にそっと触れた。 すると再び春は秋を探るように秋の目を見つめたあと、そのまま秋の手を引いて秋を抱き寄せた。 「…」 秋を抱き寄せた春の腕が少し強くなる。 秋も思わず力を込める。 2人の吐息だけが部屋に響いた。 秋が沈黙を破る。 「…ちゃんと寝れた?」 「…うん」 小さな子供のようにそう返事をした春の声を聞いて、秋は思わず小さく微笑んだ。 「良かった」 そおっと腕を解き、春の顔を覗く。 春は少し不安そうに、秋を見つめている。 その顔がたまらなく可愛くて、秋は思わず目を閉じてふふ、と息を漏らしてしまう。 好きだけじゃ、なんて言うけど、でも、好きなんだもんなあ。 どうしようもないんだって、本当。 再び目を開けて春を見ると、じっと春は秋を見つめたままだ。 秋はそんな春に額を合わせ、言った。 「…今日は一緒にご飯食べよ」 春はじっと秋の目を見つめては伏せ、そうしてそんな秋の言葉に小さくうん、と相槌を打った。 秋は言った。 「…言えないこととかないよ …春に言えないこととかない…けど 言わなかったこと…は、色々ある」 「…言わなかったこと?」 「…うん 俺らのことね、SNSで色々言われてるけど…その…文句…?とかさ?…っはは  なんかそういうのとか… …春が色々…気にしちゃうかなぁと思って… 言わなかったけどね」 「…うん」 「…本当は春と…春に1番分かって欲しい…っていうか…聞いて欲しいって思ってることとかね、あったの」 「…うん」 「…そういう話とか…そういうの…今日聞いてくれる?」 「…聞かせて」 「…面白くないかもだけど」 秋がそう言うと、春は優しく柔らかく、ふふっと微笑んて言った。 「…いいよ」 秋もそれに釣られて笑った。 互いの視線が合い、そうして秋は春に思わず吸い込まれるように口付けた。 ちゅ、ちゅ、と何度も短く唇は触れ、次第に互いの腕が互いを求めるように引き寄せ合う。 何度かそれを繰り返してゆっくりと唇が離れた時、秋はゆっくり目を開けて、春の目を見つめて言った。 「…昨日のうちにこうすれば良かった …せっかく昨日…早く帰ってきてたのにぃ…」 秋がそう言うと、春は優しく微笑んでいた表情を少し変化させる。 そうして春は拗ねたような顔と声で、秋をじっと見つめて言った。 「…そうだよ」 そんな春の反応にくすぐられるように、秋は再び吸い寄せられるように春にキスをする。 そうして舌を伸ばして春の唇を舌でゆっくりとなぞった。 そうして唇が触れたまま、秋はつぶやくように言った。 「…続き出来たのに」 すると重なっていた春の唇が薄く開いてゆっくりと秋の舌をなぞるように春の舌が這った。 秋はそれに反応して、ちゅ、と春の舌を音を立てて吸った。 春はそれに応えるように、さらに深くへ舌を伸ばす。 互いが絡み合い、もっと欲しいとねだるように相手の内をなぞった。 春の手が秋の服の下に伸びた。 秋はそれを止めることはしないが、しかしキスの合間、途切れ途切れに言葉を紡いだ。 「…もう…松永さん来ちゃうよ  …今日…寝坊しちゃった…し…」 「…うん」 そう言って、春はそっと唇を離した。 再びじっと秋の目を見つめる春を、秋もじっと見つめ返したあと、また吸い込まれるようにキスをした。 それに春がふっと、息を漏らして微笑んだ。 秋はんん〜…と弱々しく声を上げる。 すると春はまた秋にそっと口付けをしてそのまま秋に覆い被さり、言った。 「…あと3分だけ」 「…うん」 春がこういう時にする、見つめられればたちまちじっと逃げられなくなるような視線に、秋は射抜かれてしまい、そして途端に鼓動が速くなる。 春が自分を求めていることが痛いほど伝わって、堪らなく欲情してしまう。 舌の絡み合う水音と、2人の吐息、シーツが擦れる音が部屋に響く。 春の硬くなったそれが同じように大きくなった秋のものに触れる。 秋はそっと春のものに手を伸ばす。 「…どうする?」 「…ん?」 「…これ」 秋はじっと春の目を見つめ、言った。 「…どうにかしようか?」 そう言って春の返事を聞くより早く、秋はそっと下着の中に手を伸ばし、春のものを擦り上げる。 春が少し顔を歪め、秋はその表情を見てまた手を早める。 すると、春が手を伸ばし、秋のものに直に触れた。 そうして春が秋の耳元で言った。 「…一緒にしよっか」 「…うん」 秋の返事を聞くと、春は自分のものと一緒に秋のものを手のひらで包み込み、刺激を与え始めた。 互いの熱を帯びたそれが擦れ、春の手のひらで与えられる快楽に秋はたちまち甘い吐息をあげる。 「んぁ…っ」 秋は春にしがみつくように強く抱きつく。 春はそんな秋の首筋に愛おしそうに唇を落とす。それはくすぐったいと同時にどうしようもなく心地よく、しかし物足りない。 秋はとろんとした瞳で春の視線を捉え、そうしてねだるようにして春の唇に自分の唇を押し当てた。 春はそれに応えるように、舌を入れて深いキスを繰り返した。 「んぁ…っいく…」 そう秋が声をあげてびくんと身体を震わせて物から白い液を溢れ出させるも、春はその手を止めることはせず、刺激を与え続ける。 秋の出したものは春の手にこぼれ落ち、更なる刺激を与え続ける。 「あっ…んあっ…待って…待って……ぁぁっ…あっ」 秋が喉の奥から掠れるような甘い声をあげ、快楽から逃げるように身を捩っても、春は手を止めない。 そうして嗚咽のような声を秋があげた時、秋の先から再び飛び出した白い液は、先程よりも勢いよく飛び出し、2人の顎先にまで達した。 秋はそれに自分で驚き、思わず声をあげて春にしがみついていた手を解く。 「…ぁっ…ごめ…」 そう言って上げた視線で春の表情を捉えると、春は深く濃い欲を移したような瞳でじっと秋を見下ろし、少し眉を下げ顔を顰めていた。 それは嫌悪などではないのは明白で、どうしようもなくいやらしく、秋はまたそれにさらに春に欲情する。 秋はそっと春の右頬に触れる。 春はそれに摺り寄せるようにして、そして秋の手のひらにキスをした。 その手には秋から飛び出して春の顔につけた汚れがついていたが、春はそれに構わない様子だった。 そうして春が秋の肩に顔を埋め、春の吐く吐息が少し荒くなってすぐ、春の体が僅かに震え、秋の腹に生温かいものが溢れたのが分かった。 そうして春は顔を少し上げ、再び秋の目を見つめた。 秋はそんな春の首に腕を回し、再び深く口付けをした。 足りない、そう互いが叫ぶように、まだ互いを求め合っていた。 その時、春の携帯が鳴り響いた。 秋はするりと視線を携帯に向ける。 が、春はそれに構わず秋の視線を引き戻すようにキスを続けた。 そうしてまた何度もキスを繰り返してやっと互いの唇が離れて、2人は同時にふっと吹き出した。 秋は言った。 「…あと3分だけって言ったのに」 その言葉に春は眉を顰めて笑って返す。 「…無理だった」 そうして秋は甘えるように春に言う。 「…帰ったら続きしよ…? ……まだ全然…足りない」 「…うん」 そうして一度なり止んだ着信音が再び鳴り響いてやっと、2人は身を起こして慌てて寝室から飛び出していった。 ―― ――

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