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第30話-1 初めての相手

「一旦休憩入りますー!」 スタッフのその掛け声で、スタジオにいた出演者たちはセットであるソファから立ち上がり、各々控え室へ向かった。 秋もそれに続け、自分の控え室へと逃げるように足早に向かった。 バタン、と扉を閉めてから、秋は大きなため息をついて思わずしゃがみ込んだ。 「…ダメだ、全ッ然集中できない…」 そう呟いてすぐ、控え室の扉が開いて、マネージャーである藤堂が入ってくる。 そうして秋を見るや否や、眉間に皺を寄せ、苦言を呈す。 「…ちょっと今瀬さん、あからさま過ぎますよ」 「…あぁあぁ〜…」 「ああーじゃないですよ…、皆さん気遣って全然今瀬さんに話振れないじゃないですか」 「…はい…」 「ただ一緒に主演張るだけなんですから、そんな意識しなくても」 つい1時間ほど前、収録前に楽屋に訪ねて来て「春の元カノだ」と耳打ちした中野由緒は、1ヶ月後に放送開始が迫る月9ドラマのヒロインだった。 ただでさえ集中できない状況でさらに秋に追い打ちをかけたのは、その月9ドラマの主演が、他でもない春だったからだ。 藤堂が呆れたように秋に言う。 「…恋愛ドラマなんて掃いて捨てるほどやってらっしゃるじゃないですか」 「いや…そうですけどぉ…」 「そんな動揺するようなことじゃないでしょう… …まあ、中学の同級生だったって言うのは僕も知らなかったですけど」 収録前に由緒が楽屋を訪ねて来て去って行った後、しばらくして楽屋に戻ってきた藤堂は言い残したことを告げるように、「今日のゲストの中野由緒さん、今度壱川さんと月9でW主演なんで必ずその話が出るでしょうけど、いつものようにのらりくらり交わしてくださいね」と言った。 それに秋は絶叫するように悲鳴を上げ、藤堂は大袈裟ですね、なんて笑っていたのだが。 「なんかさっぱりした人じゃないですか それに壱川さんならもないでしょうし…何をそんなに動揺してるのか…」 「だ、だって…なんか…そういうシーンもあるって…」 そう泣きつくように言った秋に、藤堂は怪訝な顔を浮かべる。 「だからなんですか?ただ一共演者が仕事でそういう風に見せるってだけじゃないですか」 何言ってんだか…と言った様子で藤堂はため息をついた。

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