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第30話-2 初めての相手

付き合う前も付き合ってからも、春が恋愛ドラマに出演することは別に珍しいことではなかった。 春の出る作品は欠かさずチェックしている秋であったが、それが恋愛ドラマであるとしても、対して特別な反応をするわけではなかった。 大勢の視聴者と同じように、物語に見入り、そして春の飛び抜けたかっこよさにただ胸を躍らせるだけだ。 たとえキスシーンがあったとしても、相手に嫉妬などの感情は抱くことはない。 だって、春はいつだって仕事を終えれば家に帰ってきて、秋にだけ見せる姿があるのだから。 報道の一件があってからは特に、これまでは自主的に好きだと言ってくれなかった春も、少しずつ自分から思いを伝えてくれるタイミングが増えていたし、それに、これまで秋が誘ってばかりだった夜も、控えめではあるが、春から誘ってくれることだってあるのだ。 加えて、春が女性に対してそういった特別な感情を抱くことはない、というのは、昔春本人が言っていたことだ。 恋愛ドラマをするたびに妙に相手の女優といちいち噂を立て小さく騒ぐSNSを見ても、なんの心配もいらないと、秋はいつだってたかを括っているような、そんな気持ちでいたのだ。 しかし、今回は話が違う。 もし、由緒が言っていたことが本当だったとしたら。 春の昔の恋愛の話を、秋は聞いたことがなかった。 それは秋も話していないことだったし、実際、とりわけ気になることではなかった。 秋が知っていることと言えば、脚本家である向井聡と契約めいた身体の関係があった、ということだけだ。 知った当時こそ心がざわついたものの、それが恋心ではないというのは春からも聞いていたし、今現在、向井には松山淳という恋人がいる。 春と秋の同級生である松山は、春と向井の過去の関係を知っていて、それを精算するための話し合いの場も設けたこともある。 それもあって、あれからは秋も、向井とのことを気にしたことはなかった。 秋は正直、考えたこともなかった。 春に、恋人がいた。 何もおかしいことではない。 誰だって見惚れるようなそんな容姿をして、しかしそれを鼻にかけるようなことはせず、誰に対しても平等に優しく接する人だ。 散々モテて来ているはずだ。 けれど、春は男の人が好きなのだ。 どんな絶世の美女だって、春の気を引くことはできない、はずだ。 「…男だったら…分かるけどさあ……」 項垂れてそう小さな声でつぶやいた秋の言葉に、え?と藤堂が声を上げる。 秋は咄嗟にいやいやなんでもないです…と弱々しく返答するが、しっかり聞き取れていたようで、藤堂はそうですよ、と続けて言った。 「だから言ってるじゃないですか、はないだろうって」 しかし項垂れる秋に、藤堂は言った。 「小さい男ですねえ?」 「ええぇ…?」 「恋人の仕事内容で一喜一憂するようなそんなタマなんですか?」 しゃんとしてください、じゃないとこのバラエティ即降板申し入れるので、と藤堂はピシャリと言い放ち、秋ははい…と弱々しく返事をした。 ―― ――

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