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白夜のような肌 *
「…………牽牛。僕を見てよ……」
蒸し暑さが籠る筈の藪のなか、折りからの白光に照らされ、水面のように滑らかな薄衣が帯を解いて、
地にすべらせた翠流の姿態が、既に一糸纏わぬ肌を牽牛の網膜のなかへ、強烈な官能のそれとして焼きつけていたのだ。
「翠流……! な、何をしているんだ……っ! 神聖なる力を享 けた天人のお前が、人前で裸体 を晒すなど……っ」
「そう。——これは天人の衣だよ。
その衣を開いて肌を曝けだすのは、天界では古来からの『儀礼』なんだ。……こころを差し出す前の」
「……こころを差し出す? それは、どういう……、」
「……牽牛も織女も、互いの『幻想』に恋しているだけなんだよ。
幻想の織女なんかじゃない。"生身"の僕を、見てよ…………」
視界を苦しまぎれに手の甲で庇うも、その隙間からも白夜の指のような粒子がふれてくるようで。
いつしか手を下ろした先の、星の囀りのように瞬く翠流の瞳の煌めきよりも、
その下の殆ど目にしたことのない蒼みがかるほどの裸身に、蝶に吸い寄せられたまなこのように直視してしまう。
なだらかな円みを帯びない、確かに自身と同じ性のつくり。
しかしぷくりと広めで血色が滲み、先端の尖る、愛らしい小さな星粒を浮かべた、さも舌先を誘 いだすかのような乳輪。秘すように窪みが翳をなす臍。
そしてかつて天の川でともに水遊びをした際には垣間見なかった、うぶ毛のような下刷えがいつの間にか黒く控えめな艶を解いていた。
大事に皮のなかへ包まれていた清浄なそれも、今は剥き出しの朱 を膨張とさせ、しかもそれは羞恥とともにあからかな昂揚を生むのか、てらてらと欲情の露が湧く小首をやがてもたげて、
俯いて唇をはむ翠流とは対照に、その泪を哀願のように鈴口から月明かりを帯びた雫として、垂れ零していた。
もう訳が判らなくなっていた。
可愛い弟のような存在だと、ばかり思っていたのだ。
時にはともに牛飼いを愉しみ、天の川の畔で星の軌跡を辿って、同じ星を織女も見ているんだよと、慰められたことさえあった。
その同じ唇が、羞らいを滲ませながらも、雌鹿のような上目とで牽牛を捕えて、舐めずりをして紅い舌を翻えさせている。そう見えてしまっている。
何故そんな媚態 を見せるのかと。牽牛は問いたかった。だが実は先程から訳の解らない咽の渇きと、
信じられないことに、何層かに蹲ってはいるが、抑えがたい下腹の猛りが萌 していて、
翠流の裸身をもっと暴いてみたい、そしてその先にある"なにか"へと、
ともに呑みこまれてしまったらという孕みに、彼の根幹である雄々しい首の筋が、固唾を呑んでしまっている。
それは天人という秘珠にひとしい肌が突如開帳させられたためか。
それともあまりに生々しい性を、たちまちにこの眼前に晒されてしまったためなのか。
美しい。 確かに、翠流はまがうことなく美しい。
だがそれは自分と同じ、可愛い弟のそれであると、自制が働くより先に、果たしてこれは自分が知っていた翠流なのか。
翠流は、いつからこうだったのか。
それとも、ずっと昔から、知らぬ間にこの瞳をしていたのかという追憶がまるで指のように牽牛を呼びとめる。
牽牛、僕を見て。
吸い寄せられたその瞳の奥にきらと瞬きが弾けて、それは幼き日のかのときのものから、螺旋状に対となった気がした。
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