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 怜士邸の敷地内を移動する自動車は、全てEVだ。  環境や歩行者に配慮し、低速で静かに動く。  もうすっかり宵で暗いのだが、それでも夜間に働いている人影が時折見られた。  車窓からそんな光景をぼんやりと眺めていた倫だが、車が停まり声を掛けられると、途端に緊張した。 「到着しました。どうぞ」 「は、はい」  ロックが解除され、リアドアが開かれた。  地に足を下ろし、顔を上げた倫の目に飛び込んできたのは、穏やかな光に包まれた優美な邸宅だった。  白を基調とした、華麗な装飾のジャコビアン様式かと思えば、イスラム様式のようなアーチ形があしらってある。  幅広い建築技法が取り入れられた、落ち着いた中にも前衛的な魅力に溢れていた。  屋内に足を踏み入れると、そこは広いホールになっている。   大理石の床に、高い天井。  きらめくシャンデリアが輝き、背の高いグリーンが繁り、鮮やかな飾り壺が並ぶ。 「すごい。まるで、美術館みたいだ」  案内の使用人の後を歩きながら、倫はあたりをきょろきょろと見渡していた。  やがて歩みが止まり、厳かな声が。 「こちらが、怜士さまの寝室でございます」  軋みもなく静かにドアが開けられ、倫はその中へといざなわれた。

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