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 寝室、というからには、大きなベッドがドンと置いてある部屋を想像していた、倫。  しかし、そこには寝具は無く、まるでリビングのような空間が広がっていた。  大きな暖炉に、壁を飾る名画。  マラルンガソファに、無垢材の厚い円形テーブル。  そして、そのソファにガウンを纏った怜士が憩い、テーブルには美酒をたたえたグラスがあった。  グラスを手にし、怜士がソファの上を軽く叩くと、倫は魅入られたようにふらふらとそこへ座った。  気が付くと、案内してくれた男の姿はなく、ドアも閉じている。  静かな密室に、怜士と二人きり。  倫の緊張は、自分の鼓動が聞こえてくるほど高まった。  そんな倫に、怜士がグラスを寄こしてきた。  飲め、と言うことだろうか。  クリスタルカットのグラスには、琥珀色の液体が揺れている。  芳醇な香りだけで、酔いそうだ。  しかし、倫はグラスを受け取ることはしなかった。  首を横に振り、きっぱりと断った。

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