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「僕は、まだ18歳です。お酒は、飲めません」 「私が、許すと言っても?」  怜士は、室内をぐるりと見渡した。 「ここには、私と倫の二人きり。誰にも知られないし、咎められもしないが」 「バレないから、といって法律を破ると、それは段々と癖になります」  そして、次第に罪の重い法すら、平気で破るようになる。  まるで小さな穴ひとつから、大きなダムが決壊するように。 「千丈の堤も蟻の一穴より崩れる、か」  まだ若いのに、しっかりしている。  そう怜士が感心したところで、倫は照れ笑いした。 「父の、受け売りですけど」  真っ直ぐに、きれいな商売をしていた父親を、倫は思い出していた。  父は、倫の誇りなのだ。 「なるほど。やはり相羽男爵は、実直で真面目な人間だったのだな」  それ以上倫に酒を勧めることなく、怜士はつぶやいた。  自分だけグラスを傾けて喉を潤し、顔を上げると倫を見た。 「では、倫。君の狙いは、何だ?」 「えっ?」 「何が目的で、私の屋敷へやって来た?」 「そ、それは、その!」  てっきり、甘い一夜を要求してくると考えていた怜士の、厳しい言葉に倫は慌てた。 (エッチじゃなくって、まさかの取り調べ!?)  彼のまなざしは甘いどころか鋭く、逃げられそうもない。  どうしよう。 (この世界の外からやって来た異邦人です、って告白すれば、変人と思われるかもしれない)  でも……。 (僕は弟さんのスパイです、って白状すれば、殺されるかもしれない)   どうしよう!  それ以上、怜士は何も言わない。  沈黙の続く中、倫は必死で頭を働かせていた。

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