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 あらわになった胸の小さな乳首に怜士の吐息を感じた時、倫はようやく我に返った。 「あ、あの。待って、ちょっと待ってください!」 「安心して。ちゃんと、優しくするから」 「いえ、その。あの、キスとか、しないんですか!?」 「……キス?」  うんうんうん、と倫は首をせわしく縦に振った。  しかし怜士は、そんな倫に少し寂し気な笑顔を向けた。 「キスは。口づけは、本当に好きな人のために、取っておきなさい」 「えっ?」  どうして、怜士さまは。 (なぜ、こんなことを言うんだろう。なぜ、こんなに寂しそうなんだろう)  疑問は湧いたが、それを上回る想いが、倫の胸に押し寄せてきた。 「大丈夫です!」  怜士の目を正面から見据えて、一生懸命に訴えた。 「好きな人は、今ここに。目の前に、います。僕は、怜士さまが好きです。大好きです!」  一気に押し出す倫に、怜士は気圧された。  しかし、この若い少年をたしなめる冷静さは、まだかろうじて持っていた。 「会ってまだ、一日も経っていないのだぞ? それなのに、大好きだ、などと」  軽はずみな言動は、止しなさい。  そう、怜士は思いとどまらせようとしたが、倫は真摯な表情だ。 「一日じゃありません。僕、ずっと怜士さまのことが好きだったんです」 「倫。君は……」  少年は、以前から推していたキャラクターとして、怜士を見ていた。  侯爵は、元・男爵の子息だった倫と、社交界のどこかで出会っていたのか、と思った。  ただ、両者に共通して言えることは。  この世界において、ひと目で互いに惹かれ合った、という事実だ。 「いいのか?」 「はい……」  二人、静かに顔を寄せ合い、唇を重ねた。  そのぬくもりが、それぞれの孤独を埋め始めていた。

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