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 倫の返事に、怜士は良かったと表情を和らげた。  しかし、まだ眉間に一本の縦皺が寄っている。 「もし、今回のことで君が妊娠したら」 「あ、そう言えば……」 『いや、あの。中は。中はダメぇ! 僕、僕、妊娠しちゃうかも!』  確かに僕は、そう叫んでいたような。  そのことを、怜士は重く受け止めているようだ。 「子どもができたら、その時は」 「は、はい」 「私が、父親になってもいいだろうか?」 「……ええッ!?」  それは。  それは確かに、妊娠したら父親は欲しいところだけど。 「で、でも。怜士さまと僕とでは、身分が違いすぎませんか!?」 「それには、及ばない。身分など、私はもう真っ平なんだ」 「えっ」  静かだが、強い口調の怜士に、倫は驚いた。  一瞬静まり返ったそこへ、和生の明るい声が聞こえてきた。 「お茶の支度が、整いました」  それを合図に、怜士は使用人を再び近くへ呼び戻し、何事も無かったかのように時が動き始めた。   『身分など、私はもう真っ平なんだ』  しかし、この怜士の放った言葉は、いつまでも倫の耳から離れなかった。

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