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 虎太郎に引きずられるようにして、怜士の前に突き出された丈士。  その姿に、怜士は驚いた。 「丈士。なぜ、ここに?」 「や、やぁ。怜士お兄様……」  そのやり取りに、今度は虎太郎が驚いた。 「本当に、こいつは怜士さまの弟君なんですか?」  うなずく怜士に、丈士は甲高い声で叫んだ。 「だから、言っただろう! さっさと、この手を離せ!」  しかし、と虎太郎はまだ渋っている。 「この男、こっそり怜士さまのお姿を盗み見してましたぜ。ガンなんとか、とも言ってたし!」 「ガンマイク! 銃ではなく、指向性マイクのこと!」 「すると、盗聴までしようとしてたのか。貴様!」  さらに腕を捻り上げられ、丈士は悲鳴をあげた。 「痛い痛い! お兄様、助けて!」  その姿に、怜士は笑いながら虎太郎を止めた。 「もういい。虎太郎、丈士を解放してやれ」 「はい……」  不服そうな表情だったが、虎太郎は丈士から腕を離した。  さんざん痛めつけられ、この弟は腕をさすって涙目になっている。  その姿に、倫は目を円くしていた。 (この人が……。怜士さまの弟、丈士さま!)  そして、僕をスパイとして、怜士さまの元へ送り込んだ男!  否が応でも、倫の緊張は高まっていた。

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