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何に対しても、まずは形から入る丈士の癖が、今回は裏目に出た。
怜士の様子を盗み見していたことを、絶対に隠せない迷彩服姿。
ピーピング犯の弟を持ってしまった兄は、微笑みながらもストレートに問いかけた。
「それで? 君は私をこっそり見張って、何を探ろうとしていたんだ?」
それについては、丈士は必死で言い訳した。
「れ、怜士お兄様が、新しい情夫をつくったらしいので! どんな人間か、見極めようと!」
新しい情夫、とは倫のことだ。
自分が送り込んでおきながら、丈士は彼を自己正当化の材料にした。
苦笑いした後、カップを口に運んだ怜士。
ゆっくりとお茶を味わい、静かにまたカップをソーサーに戻した。
少し、息を吐く。
そして、丈士に告げた。
「気を遣わせて、すまない。だが、心配は無用だ」
怜士の声は穏やかだが、確信に満ちていた。
「倫は、相葉家の子息。背景がしっかりしているし、彼自身も気立てがいい」
私はただ、倫が好きなんだよ。
そう、こともなげに話す兄に、丈士は眉をひそめた。
「相羽男爵は、汚職の罪で失脚したんですよ?」
「その男爵を糾弾し、陥れたのはどこの誰かな?」
怜士の反撃に、丈士は言葉を詰まらせた。
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