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お茶の時間を務めた後、倫は自室へ戻った。
今日はゆっくりして、体を休ませるように。
和生だけでなく、怜士もそう言ってくれたからだ。
部屋着に着替えてソファに座り、倫はようやく一人で落ち着いて、考えを巡らせることができた。
「僕は本当に、別世界に来てしまったんだ」
一晩寝ても、覚めることのなかった現実。
それを踏まえたうえで、自分ができることについて深く思った。
「怜士さま。桜餅を、最後まで半分残してた」
イレギュラーで、ティーブレイクに途中参加した、丈士。
彼の分の桜餅は、用意されていなかったに違いない。
丈士はすぐにその場を去ってしまったが、怜士は戻って来てくれることを期待していたのだろう。
「残り半分の桜餅は、丈士さまに食べさせてあげたかったんだ。怜士さまは」
それを思うと、胸が痛む。
「僕。この二人に、何かしてあげられることは無いのかな?」
兄弟を、仲良くさせることはできないのかな?
スパイとはいえ、丈士とも連絡が取れる状況にある、倫だ。
この立場を利用して、二人の関係を修復したい。
倫が思う、一つ目の考えだった。
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