59 / 179
第十二章 二人の懸け橋に
怜士と、丈士。
この兄弟の仲を、何とか修復したい。
倫の、切なる願いだ。
それから、もう一つ思うところがある。
「僕はなぜ、相羽 倫として、この世界にいられるんだろう?」
確か、昔読んだ小説には、そんな名前のキャラクターは存在しなかった。
もし登場していれば、自分と同姓同名なのだから、もっと記憶に残ったはず。
紙とペンを用意して、倫はデスクに向かった。
思い出すまま、小説の筋や人名、相関図などを書き出してみる。
「もしかして……。丈士さまのスパイは、あんまり重要なキャラじゃなかった、ってこと?」
確かに、怜士の元へ丈士からのスパイは送り出されていた。
ただ、彼は一貫して名前を持たなかったのだ。
『丈士のスパイ』とか、『この間者は』とか、『回し者が』とか。
終始、そんな感じで紙面に出ていただけだった。
そのスパイが怜士に気に入られて、傍に置かれるようになる。
彼はその後……。
「怜士さまからいろんな情報を得て、丈士さまへ伝えるんだった」
そして情報をもとに、丈士は怜士を揺さぶりにかかる。
侯爵の地位と、その領地を奪おうと。
「だけど同時に、外国からの圧力も水面下で高まっていたんだ」
怜士は海外への対応に追われて、丈士どころではないのだ。
そんな二人の仲が、決定的に裂かれるほんの少し前に、倫はこの小説を読むことをやめた。
受験勉強、店の手伝いや家事、そして病に倒れた父母の看病。
読書をする時間は無くなって、その先は読めなかった。
ともだちにシェアしよう!

