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第十二章 二人の懸け橋に

 怜士と、丈士。  この兄弟の仲を、何とか修復したい。  倫の、切なる願いだ。  それから、もう一つ思うところがある。 「僕はなぜ、相羽 倫として、この世界にいられるんだろう?」  確か、昔読んだ小説には、そんな名前のキャラクターは存在しなかった。  もし登場していれば、自分と同姓同名なのだから、もっと記憶に残ったはず。  紙とペンを用意して、倫はデスクに向かった。  思い出すまま、小説の筋や人名、相関図などを書き出してみる。 「もしかして……。丈士さまのスパイは、あんまり重要なキャラじゃなかった、ってこと?」  確かに、怜士の元へ丈士からのスパイは送り出されていた。  ただ、彼は一貫して名前を持たなかったのだ。 『丈士のスパイ』とか、『この間者は』とか、『回し者が』とか。  終始、そんな感じで紙面に出ていただけだった。  そのスパイが怜士に気に入られて、傍に置かれるようになる。  彼はその後……。 「怜士さまからいろんな情報を得て、丈士さまへ伝えるんだった」  そして情報をもとに、丈士は怜士を揺さぶりにかかる。  侯爵の地位と、その領地を奪おうと。 「だけど同時に、外国からの圧力も水面下で高まっていたんだ」  怜士は海外への対応に追われて、丈士どころではないのだ。  そんな二人の仲が、決定的に裂かれるほんの少し前に、倫はこの小説を読むことをやめた。  受験勉強、店の手伝いや家事、そして病に倒れた父母の看病。  読書をする時間は無くなって、その先は読めなかった。  

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