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「よし。それだったら、僕は結構自由に動けるはずだ」  名前ももらえなかった、丈士のスパイ。  その丈士もまた、怜士に真実の兄弟愛を伝えてもらえないまま、暴走し始めている。 「この世界で、僕が為すべきことが見つかった気がする!」  それは、怜士と丈士を、しっかりと兄弟の絆で結ぶこと。 「それができれば、外国からの攻撃も、二人で乗り越えられる気がする!」  全て『気がする』と、予想の範疇を超えないのだが、倫には目標ができた。  ようやく、この世界で前向きになれたのだ。  今まで、周囲の人たちに流されるようだった。 「でも、これからは違うよ!」  倫は、目の前が大きく開けた心地がした。  天井に向けて両手を突き上げたところで、ドアをノックする音が聞こえた。 「倫くん。ここを、開けてくれる?」  和生の声だ。  急いで倫がドアを開けると、そこにはランチの乗ったトレイを手にした和生が立っていた。 「和生さん。わざわざ、お昼を持ってきてくれたんですか?」  確かに昨晩の初体験で、疲れてはいるけれど。  そこまで重篤ではないのに、と倫は恐縮した。 「食堂へ、そろそろ行こうかな、と思ってたんですよ」 「でも。ちょっと、話があって」  ついでだから、と和生はトレイをリビングのローテーブルに乗せた。

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