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「さて、と」  和生がいなくなってから、倫はすぐに端末を取り出した。  丈士との連絡に使われる、専用のツールだ。 『夜、寝る前に一日の報告をしろ。それに、何か変わったことがあれば、すぐに連絡を』  丈士には、このように命じられていた。 「変わったこと、あったもんね」  数回のコール音の後、丈士の声が聞こえてきた。 『何だ。今から、デザートを食べるところなんだ。早くしないと、溶けてしまう!』 「ご報告があります」 『怜士お兄様に、何かあったのか?』 「はい。怜士さまは、10時のお茶に出た桜餅を、半分残されました」  それがどうした、と丈士は呆れ声だ。  腹でも痛くして、食べられなかったんだろう、と茶化してきた。  だが、倫は大まじめに丈士に話した。 「桜餅を半分残されたのは、丈士さまが戻って来られるのではないか、と思われたからです」 『何だって?』 「桜餅は、二個しか用意されていませんでした。だから、怜士さまはご自分のお餅を半分、丈士さまに食べてもらおうとなさったんです」 『怜士お兄様が、そんなことを……』  そうです、と倫は畳みかけた。  怜士は、丈士を本当は大切に思っているに違いない、と。

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