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第十三章 静かな時間
夜、迎えの車に乗り込み、倫は昨日と同じように怜士の屋敷へと向かった。
通された寝室では、これまた昨日と同じように、怜士がグラスを傾けていた。
「こちらへ」
「はい」
素直に怜士の隣に腰掛けた倫だったが、次には彼をたしなめた。
「お酒ばかり飲んでいると、お体に悪いです」
それには柔らかな笑みを返し、怜士は言った。
「怒られてしまったな。しかし、飲みたい気分なんだ」
空になったグラスに、再びボトルを近づけた怜士の腕。
その手に、倫は自分の手のひらを重ねた。
「丈士さまのことで、お酒を?」
今度は苦笑いを返し、怜士は瞼を閉じた。
「鋭いな、倫は」
「怜士さま、桜餅を半分とっておいでだったでしょう? あれは、丈士さまのために」
瞼を閉じたまま、倫の言葉を聞いていた怜士。
そしてやはり、目を開かないままつぶやいた。
「昔は。幼い頃は、こうではなかったのにな。二人とも」
丈士だけでなく、自分自身にも何かしらの原因はある。
そう、怜士は考えていた。
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