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 重いボトルをテーブルに置き、倫は姿勢をつくって両腿をポンと叩いた。 「どうぞ。ちょっと、狭いかもしれませんけど」 「ありがとう」  怜士は少しためらう仕草を見せたが、そのままそっと倫の脚に頭を預けてきた。  はぁ、と小さな息をひとつ。  再び瞼を閉じた怜士は、じっとして動かない。  静かな時間だけが、さらさらと過ぎていく。  彼が大切にする沈黙を破ることには気が引けたが、倫は言わずにはいられなかった。 「あの。怜士さま」 「何かな」 「もう少し、真ん中に頭を置いてくださっても、いいですよ?」  怜士はその頭を、倫の太腿の片方だけにしか乗せていないのだ。 「ああ、そうだな」  それでも怜士は動かずに、ただ独り言のように語った。 「昔。幼い頃に、私と丈士はよくこうして母の膝に憩ったんだ」  もう、亡くなってしまった母の、膝枕。 「こう、両方から。母の膝を片方ずつ分け合って、ね」  あの頃は、とても仲が良かったのに。  一体、どこでボタンを掛け違えてしまったのか。 「怜士さま……」  倫は、悲しい男の髪に触れ、優しく撫でた。  そうしてあげるより他に、何も思いつかなかった。

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