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 怜士の姉・彩華を待っていた倫だったが、先に現れたのは丈士だった。  彼はダイニングに着くや否や、早口の小声を発してきた。 「彩華お姉様は、まだ?」  怜士は小さく笑いながら、おののく丈士に声を掛けた。 「お姉様は、別室でくつろいでおられるよ」 「え!? じゃあ、もう到着はされてる、ってことですか!?」 「まあ、そういうことにはなるな」  丈士はうなだれ、溜息をつきながら席についた。 「叱られる。お姉様に、久しぶりに叱られる……」  丈士の脳裏には、姉より遅れて来るとは何事か、と怒る彩華の姿がありありと浮かんでいる。  顔色の悪い弟を、怜士は慰めた。 「お姉様と少しお話ししたけれど、以前に比べると、ずいぶん穏やかになっておいでだったぞ」  あまり心配するな、と怜士は言ったが、丈士は半信半疑の様子だ。  本当かなぁ、などとつぶやき、しきりにソワソワしている。  あっちを向いたり、こっちを向いたり。  立ったり座ったりと、忙しい。  丈士は、完全に落ち着きを失っていた。

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