86 / 179
3
丈士の気の毒な様子に、倫は小声で怜士に問うた。
「彩華さま、って。そんなに厳しい御方なんですか?」
「思ったことは、なんでも口にする人だ。私も、よく叱られたよ」
「叱られた、って。怜士さまが、ですか?」
この怜士の、どこに叱られる種があるというのだろう。
しきりに不思議がる倫に、怜士は苦笑いしながら並べた。
「喜怒哀楽に乏しい、とか。人に厳しすぎる、とか」
それは確かに、倫が小説で知った怜士の姿だ。
ただ、それだけでは推しキャラにはならない。
時折見せる、心優しい一面があったからこそ、好きになった。
この世界に迷い込んでから、さらに深くその情に触れ、like はLove に変わっていた。
「でも。怜士さまは、お優しいですよ?」
そういう美点には、彩華は気づかないのだろうか。
ちょっぴり不満げな倫の物言いに、怜士は微笑んだ。
「ありがとう。お姉様も、そう評価してくれたことがあったよ」
思ったことは、なんでも口にする彩華。
厳しく叱る一方で、手放しで褒めてもくれる。
そんな、裏表のないオープンな性格。
怜士が語る彼女の人となりに、倫は好意を抱いた。
(僕は、どんな風に叱られたり、褒められたりするんだろう?)
そんな風に、不安と期待を抱いていた。
ともだちにシェアしよう!

