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 丈士の気の毒な様子に、倫は小声で怜士に問うた。 「彩華さま、って。そんなに厳しい御方なんですか?」 「思ったことは、なんでも口にする人だ。私も、よく叱られたよ」 「叱られた、って。怜士さまが、ですか?」  この怜士の、どこに叱られる種があるというのだろう。  しきりに不思議がる倫に、怜士は苦笑いしながら並べた。 「喜怒哀楽に乏しい、とか。人に厳しすぎる、とか」  それは確かに、倫が小説で知った怜士の姿だ。  ただ、それだけでは推しキャラにはならない。  時折見せる、心優しい一面があったからこそ、好きになった。  この世界に迷い込んでから、さらに深くその情に触れ、like はLove に変わっていた。 「でも。怜士さまは、お優しいですよ?」  そういう美点には、彩華は気づかないのだろうか。  ちょっぴり不満げな倫の物言いに、怜士は微笑んだ。 「ありがとう。お姉様も、そう評価してくれたことがあったよ」  思ったことは、なんでも口にする彩華。  厳しく叱る一方で、手放しで褒めてもくれる。  そんな、裏表のないオープンな性格。  怜士が語る彼女の人となりに、倫は好意を抱いた。 (僕は、どんな風に叱られたり、褒められたりするんだろう?)  そんな風に、不安と期待を抱いていた。

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