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「どうもありがとう。素敵、と言われて喜ばない人間は、少ないわ」
「え!? あ、すみません! 僕ったら、不躾なことを!」
「いいえ。素直に、嬉しいのよ。ところで、お名前を聞かせてくださる?」
「はい。相羽 倫と申します」
倫の応えに、彩華はにっこりと笑った。
「わたくしは、北白川 彩華です。こちらは、息子の光希(こうき)。よろしくね」
彩華のすぐ隣には、5歳と聞いている男児が立っている。
幼いながらも、ぴしりとスーツで装い、ていねいに頭を下げた。
「光希です。怜士おじさま、丈士おじさま、ご無沙汰しております」
そして。
「相羽さま、初めまして。今後とも、よろしくお願いします!」
その立派な挨拶に、倫は思わず拍手をしていた。
「すごい!」
やや遅れて、怜士も丈士も手を叩いた。
「大きくなったね、光希くん」
「ご挨拶も、上手になったよ」
だが、口では光希を褒めながら、二人は姉の発言を考えていた。
『わたくしは、北白川 彩華です』
何のよどみもなく、北白川の姓を名乗っている。
これは本当に、本気で姉は離婚して戻って来たのだ。
優雅な所作でテーブルに着く、彩華と光希。
ふと、怜士を伺った倫は、その横顔がやけに緊張していることに気づいた。
(怜士さま、お姉様のことが心配なのかな)
楽しいはずのディナーは、重苦しい空気の中で始まった。
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